IT業界は実務経験がものをいう世界であり、そもそも資格取得に意味がないと思っている方も多くいるのではないでしょうか。
プログラマーがインフラ系の資格であるLPICを取る必要があるのか、悩みどころでもありますし、よく議論にもなっているようです。
しかし、ITエンジニアの人手不足は深刻で、政府による見解では2030年には最大約79万人のIT人材が不足するといわれています。そのため、中小のIT企業では経験者が中途採用できずに困っているという声も耳にします。
そのため、未経験の求人が増加することも想定されることから、応募にあたって資格を取得していたほうが有利になるという見方もできるでしょう。
本記事では、「LPICの取得は意味ないのか?」というテーマについて、資格の概要をおさらいしつつ解説していきます。
Contents
そもそもLPICとは?
そもそもLPICはどのような資格なのでしょうか。まずはLPICの試験概要をはじめ、試験範囲や取得のメリットなどを解説していきます。類似資格のLinuCとの違いについても触れているので、あわせて参考にしてみてください。
LPICの試験概要
LPICはLinux Professional Institute Certificationの略称であり、Linux OSの技術を証明するためのIT資格です。カナダを拠点とするNPO法人のLinux技術者認定機関であるLPI(エルピーアイ)が運営しており、
試験は主に3段階のレベルがあり、LPIC-1、LPIC-2、LPIC-3に分かれています。下位資格を取得していないと、上位資格を受験できません。
また、LPIC-1とLPIC-2に関してはそれぞれ101試験・102試験と201試験・202試験に分かれており、2つの試験に合格しないと認定が得られない仕組みです。
なお、いずれの資格も有効期間が5年に設定されています。
各レベルの受験価格は、16,500円(税込)です。LPIC-1の認定を取得するには101試験・102試験に合格しなければならないので、33,000円(税込)の受験料になります。
ITエンジニアの代表資格である基本情報技術者の受験料が※5,700円(税込)であることから、相場としては高い金額といえるでしょう。勉強不足で受験費用を無駄にしないよう、計画的に学習を進めることが重要です。
※2022年4月より7,500円に値上げが決定
LPICの試験内容
LPICでは、主にLinux環境の操作内容について出題されます。たとえば、Linux環境ではコマンドによって操作を行います。
代表的なコマンドとしては、cd(フォルダ移動)、mv(ファイル移動)、cp(ファイルやフォルダのコピー)、mkdir(フォルダの作成)などが挙げられます。
具体的な問題の例を挙げると、「現在の作業ディレクトリパスを表示するコマンドはどれですか?」「バイナリファイルの内容を8進数で表示するコマンドを選択しなさい」などです。
このようなコマンドの使い方を問う内容が出題されますが、実際コマンドの意味を書籍で覚えるよりも、Linux環境を構築してコマンド操作を実際に行ったほうが、効率的に知識が定着していきます。
LPICを取得するメリット
LPICでは、Linuxにおけるコマンドの操作だけでなく、ネットワークやサーバー、セキュリティなどに関する内容を学習できます。また、Linux内で一連の処理を行うためにプログラムを記述する場面もあります。
つまりLPICは、ITエンジニアに求められる知識を網羅的に学習できる貴重な資格です。
ITエンジニアにはさまざまな種類があり、ネットワークエンジニアやサーバーエンジニア、セキュリティエンジニア、プログラマーなど、どの職種を目指すべきか迷ってしまいがちです。
その点、LPICの資格取得を目指してITの関連知識を学習していけば、自分が興味のある分野を把握しやすくなります。ITエンジニアとしてのキャリアに迷っている方も、LPICの取得を検討してみる価値は高いといえるでしょう。
LPICとLinuC(リナック)の違い
これまで日本ではLPI-JapanによってLPICが普及されていましたが、LPI-Japan は2022年現在においてLPICの取り扱いを基本的には停止する方針を示しています。
理由は、Linuxは地域性に左右されるOSであり、日本市場に最適化したLinuxの認定試験を作る必要があると判断されたからです。
LPI-JapanがLPICの代わりとして普及を始めたのが、LinuC(リナック)です。クラウド時代のITエンジニアに求められる技術を証明できる資格として、受験できるようになりました。
細かい違いとしては、LPICはスコアと合否の判定だけが確認できるのに対して、LinuCはそのほかに合格基準や項目別スコアなどまで確認できる点が挙げられます。
なお、LPICは日本でも受験は可能なので、その点については勘違いをしないようにしましょう。
LPICの取得は必要ないといわれる理由
LPICの資格試験は、実際にLinux OSを操作して課題をクリアする試験ではありません。マウスによる選択問題なので、わからない問題でも正解できてしまう可能性があります。
つまり、書籍で基本的な知識を暗記して、過去問題を繰り返し解くことで、感覚的に正解率を高めることが可能です。
そのため、LPICの資格を所有しているからといって、実務でLinux OSの操作が一通り行えることを証明するのは難しいといわざるをえません。
したがって、実務経験がない方でLPICを取得した方であれば、就職や転職の際に資格をうまくアピールできないケースも多いと想定できます。
このような背景があり、LPICの取得は必要ないといわれているのでしょう。
プログラマーにとってLPICは役に立たない?
LPICは、ネットワークエンジニアやサーバーエンジニアなどに役立つ資格です。結論として、プログラマーが率先して取得すべき資格ではありません。
しかし、LPICの取得がプログラマーにとって全く役に立たないわけではありません。
なぜなら、プログラマーはあくまでプログラミングスキルを武器として仕事をしますが、最終的に顧客が望む成果を出すことが求められます。
Linuxで学んだコマンドスキルによってファイルやフォルダを効率的に処理すれば、プログラミングとは異なるアプローチで顧客の望むデータ処理をクリアできるケースがあるからです。
ちなみに、LinuxだけでなくWindowsのようなOSでもコマンド操作が可能であり、Linuxで学んだコマンド操作の考え方が役に立つケースがあります。
LPICを取得して、ほかのプログラマーが持ちえないデータ処理のスキルを身に付ければ、ITエンジニアとしての市場価値も高まるに違いありません。
IT業界ではエンジニアの資格よりも実務経験が評価される傾向
ITエンジニアに関する資格は、LPIC以外にもITパスポートや基本情報技術者、各種プログラミングの試験などさまざまあります。
しかし、実務経験がなくても取得できてしまう資格も多く、就職や転職では必ずしも評価されるとは限らず、実務経験を持つ方評価される傾向にあります。
ただ、IT企業でも未経験者を募集している求人は意外と多いです。おそらく、実務経験のある優秀なエンジニアだと、コストが高くなってしまうことが関係しているのでしょう。
全くITと無縁の業種の方でも、ITエンジニアとして活躍している事例も珍しくありません。しかし、全くITに関する興味や知識がないと判断されれば、採用される確率は減ります。
その点、資格を取得しておけば面接に案内されるきっかけをつかみ、採用のチャンスも得られます。したがって、LPICの資格取得がITエンジニアへのデビューの足掛かりとなる可能性も、ゼロではないということです。
まとめ
LPICについて意味がないのかというテーマで解説をしました。
LPICは、暗記問題が多いうえに選択方式をベースとした試験です。コマンドの意味をおおよそ把握しておけば、運によって合格できてしまうケースもあり、取得の意味がないように思えるのは事実かもしれません。
しかし、LPICではネットワークやサーバー、セキュリティなどの幅広い知識を学べます。職種を限定せずに、顧客の要望に応えられるITエンジニアとしての市場価値を高めたいのであれば、LPICの取得はおすすめです。
IT系の資格を取得する際に最も重要なのは、試験のための勉強や暗記をしないことです。
勉強をすすめる過程で、各ワードを理解し、真意を汲み取って、自身の知識として身につけることを意識することです。
IT業界、ITエンジニアの転職に資格はあまり意味がないといわれるのは、知識を自己スキルまで昇華できずに、資格を持っていることに価値があると誤解してしまうからなのです。
自身のスキルとして身につけることができれば、ITエンジニアになれた後でも、新たなスキルを習得する際の方法が理解できていれば、将来的にフルスタックエンジニアになることすら可能になるかもしれません。
また、近年はAWSやAZULE、GCPなどのクラウドサービスの利用が急激に増えてきており、ITエンジニアとしてはインフラに関する知識がさらに求められる時代になったといえます。
インフラに関する基礎知識を学びたいケースにもLPICの取得を検討してみるとよいでしょう。
ITエンジニアとして転職、就職する際に、取得している資格をアピールするのではなく、資格を取得する過程でどのような勉強をしてきて、どのような知識、経験を得ることができたのかをアピールすると、面接官との会話も違うものになっているでしょう。