新型コロナウイルスの感染防止という観点から急激に進んだ「テレワーク」は新たなワークスタイルとして、オフィス通勤をしている社員たちに喜んで受け入れられてきました。
特にITエンジニアは既にクラウド化、リモート業務という環境構築も進んでおり。テレワークを受け入れられる土台があったこともあり、テレワークの導入が加速しました。しかし、ここ最近は在宅勤務による疲れからか、出勤を希望する人が増えていて「オフィス回帰」の傾向がIT業界でも進んでいるようです。
背景には長引くコロナの影響もあり、家族としかコミュニケーションが取れず、テレワーク疲れが加速していることが考えられます。
では、コロナ禍で既に1年半以上が経過し、やっと感染者数も減少傾向隣非常事態宣言も全面的に解除されることになりました。
国からも要望のあった出勤者7割減という話がありましたが、非常事態宣言下のテレワークの実施状況はどうなっていたのでしょうか?
また、冬には感染者数が再度上昇するだろうと囁かれている中、IT企業のテレワーク環境は今後どうなるのかについても触れていきます。
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現在のテレワーク実施率
新型コロナの対策として、政府がテレワークの実施を企業に呼びかけたこともあり、多くの企業がテレワークを推進してきました。
国土交通省の資料によると、最初の緊急事態宣言が出された 2020年4月~5 月ごろのテレワーク実施率はそれまでと比較し全国平均で約2割、特に東京などの都心周辺では約3割を超え、コロナ流行以前に比べると大きく上昇しました。
出典:「テレワーク」実施者の割合が昨年度から倍増!(国土交通省)
しかし、最初の緊急事態宣言が終わったあともコロナの感染拡大は収まるどころか拡大の傾向が続いていますが、テレワーク実施率は少しずつ下がり続けているのが現状です。
大企業と中小で実施率に大きな差が
企業規模(従業員数)によってテレワーク導入率に差があることが報告されています。
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表した「テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)」の資料によると、従業員数が 1,000人以上の大企業の半数以上がテレワークを導入・実施しているのに対し、日本企業の大部分を占める中小企業の場合では、従業員数が少なくなるほど、テレワーク導入率も比例して低下しているデータが出ています。
特に従業員数が 99人以下の中小企業になると、大企業の半分以下の導入率に下がってしまっている状況です。
出典:テレワークの労務管理等に関する実態調査(速報版)(三菱UFJリサーチ&コンサルティング)
「経済センサス-活動調査」によると、個人事業主を除く法人企業の数は、日本全体で200万社以上あり、その内の98%以上が従業員数 99 人以下の中小企業と言われています。このことから、テレワークの導入が進んでいるのは大企業や、東京23区が中心の一部のみで、大半を占める地方や中小企業のテレワーク導入は、まだまだ低い現状であることがうかがえます。
IT企業のテレワーク実施状況とは
テレワークの導入障壁が低いと言われているIT企業の実施状況はどうなのでしょうか?
三菱UFJリサーチ&コンサルティングが発表したデータによると、全業種平均のテレワーク実施率が 14% であるのに対し、情報通信業は 56.3% と圧倒的に高い数字であることが報告されています。
同社が発表した業界別のテレワーク実施率の上位5件は次の通りになります。
- 情報通信:56.3%
- その他サービス業:22.3%
- 製造業:19.1%
- 鉱業,採石業,砂利採取業:16.7%
- 教育,学習支援業:15.9%
IT業界のテレワークの実施率が非常に高いことはデータからわかりましたが、週5日間すべてがリモートワークという企業は一部だと思われます。週1回は出社する必要がある企業や、月水金はリモートで火木は出社というように出勤者を減らすため、リモートワークを活用しているIT企業が大半を占めるのではないかと思われます。特にマネージャーなどの役職者になると、その傾向が強いようです。
すべての IT エンジニアがテレワークを実施するのは難しい
ITエンジニアはパソコン1台さえあれば仕事ができそうなイメージがありますが、実際はすべての IT エンジニアがテレワークを実施できるわけではなく、次のような理由からオフィスへの出社が必要になるケースもあるようです。
- 自宅のPCから、お客様のテスト環境や本番環境に接続できない。または現地での作業を求められている
- 自社のセキュリティ上の理由から、ドキュメントやデータなどの機密情報を外部に持ち出すことができない
- サーバー機器やその他ハードウェアの保守など、機器が手元にないと作業ができない
- 打ち合わせなどで、お客様が対面でのミーティングを求めている
働きやすい環境だったはずのテレワーク
コロナ禍の影響で半ば強制的に急速に進んだテレワーク導入ですが、良い方向での副産物もさまざま生み出しています。例えば「電子契約などの電子決済」「対面営業の縮小」「Webミーティングの普及」などが挙げられます。
また、働くエンジニアからも、通勤時間からの開放、リラックスできる環境で集中できて仕事ができる、スキマ時間の活用ができるなど、テレワークは働く環境として最適だと言われてもてはやされて来ました。
企業の視点から見ても、通勤交通費やオフィススペースの削減、慢性的なエンジニア不足と言われる状況で離れた場所に居る有能な人材を活用できるなど、企業にとってもメリットが多くあるように見えたが、前述したデータが示すとおり、テレワークの導入は進むどころか、むしろ減ってきているのです。
オフィス回帰が始まっている
日本生産性本部が発表した「第6回 働く人の意識調査」で、テレワーカーがオフィス回帰を望んでいる可能性があるとの指摘がありました。
通勤時間がなくなり、家族との時間が増え、苦手な相手との人間関係を回避できるなど、メリットが多くありそうなテレワークであるが、いわゆる「テレワーク疲れ」が原因でオフィス回帰が進んでいるのです。
なぜ今になってテレワーク疲れが問題になっているのか?
テレワークによって生活リズムの乱れや、運動不足・飲酒量の増加、仕事と家庭のオンオフをうまく切り替えられず過重労働なったなど、不慣れなことに問題もあるせいか、当事者が気づかないままジワジワと身体的・メンタル的に悪い影響を与えているケースが増えています。
ITエンジニアは元々パソコンに向かって集中して業務をすすめる職種でもありますので、コロナ禍以前のようにちょっとコーヒーブレイクと周囲の人と会話したりする休憩時間もなくなり、長時間パソコンの前から動かずに作業に没頭してしまう人も多いのです。
また、IT業界ではリモートワークになったことにより就業時間が曖昧になってしまい、以前よりも残業時間が増えているというエンジニアもいるようです。難しいのはある程度の自由度のある在宅勤務の場合は、残業時間の扱いをどうするのか明確に規則化できていない企業もあるようです。
そして、コロナ禍が始まって約1年半が経過した今頃には体に深刻な影響が出てしまい、病院から休職の診断書を出されて自宅での出社すらできない人もいるのです。
テレワーク疲れが起こる原因とは
「テレワーク疲れ」を引き起こす原因はさまざまですが、次の項目のいずれかに該当するようであれば、テレワーク疲れの傾向があるので注意が必要です。
- 仕事に集中しすぎる。気づけば休憩も取らずに長時間PCに向かっている
- 肩こり・目の疲れなどの体調が優れない状況が続いている
- 周りの人に聞きづらい状況で孤独感を感じる。精神的に辛い
- 家庭環境が仕事向きではなく、リラックスして仕事ができない
- 仕事と家庭の気持ちの切り替えが難しい。常にメールなどが気になる
- Web会議が多く集中して作業する時間が作れない。
- 丸一日誰とも会話していない、コミュニケーションが不足している
出勤者7割減は不可能なのか?
東京オリンピック期間中の人流を減らすために、政府はさらなるテレワークの実施を求めたていましたが、結果として全体の実施率は増えませんでした。
IT企業だけを見れば実施率は目標の 7 割を達成しているとも言われているが、この感染拡大が急上昇中の最中でもテレワーク実施率はさらに上がっていくのでしょうか?それともテレワーク疲れ、テレワークでの課題などからオフィス回帰が進んでいくのでしょうか。
特に SESを中心としたIT企業などは、事業会社の働き方に依存するため、単純にIT企業のリモートワーク実施率を見ても判断できない部分があります。
また、そもそもの日本の商習慣ではテレワークが難しい環境もあることといわれていること、ITエンジニアも人とのコミュニケーションが必要であることなどから出勤者7割減を維持・継続することは難しいとの意見も多いようです。
今後、日本の労働環境はどこに向かうのか?
テレワークの導入が加速すると、担当する業務の内容を明確にせざるを得なく、評価基準も結果、成果で判断するという成果主義に向かっていくでしょう。
そもそもIT業界は年俸制から始まり、常に諸外国に習い成果主義にシフトするだろうと言われ続けていますので、この状況は先陣を切ってIT業界が成果主義化が加速するのではないかとも言われています。
そうなると、平行して進んでいくのは「JOB型」雇用ということになります。年功序列、終身雇用が終焉を迎えたと言われている昨今、IT企業は特に成果主義について進めようとしている流れがあり、世界に習い成果主義であるJOB型雇用が中心となっていくことになると言われています。
よく副業OKという企業の話を耳にするようになったと思いませんか。また、副業を探せるサービスも増えてきていると感じるのではないでしょうか。ITエンジニアが年収を上げる手段として、副業をしている人も多いですが、これも成果主義にシフトするための入り口なのかもしれません。
もしテレワークが普及すれば、それに合わせて日本の従来の働き方は完全に終わりを迎えるのではないでしょうか。
ただし、IT業界は慢性的な人手不足に陥っていて2030年までに最低でも59万人以上の人材が不足すると予想されています。
デジタルトランスフォーメーションの対応や、事業会社がITエンジニアを社内で雇用することが増えていることも大きな要因だと思われます。
今後の日本の経済を後退させないためにも、ITエンジニアの自在不足は解消しなくてはならない大きな課題なのです。
IT業界はリモートワーク導入が容易なことから、フルリモートで地方のエンジニアを雇用するという、働く場所を制限しないワークスタイルが確立できれば、ある程度の人材不足を解消することも可能なのではないかという見方もあります。
フルリモートで地方在住というスタイルはメリットも多くあります。まず生活コスが都心に比べ段違いに安いということです。さらにはフルリモートなので交通費も必要ありませんし、経済が最も発展している首都圏の企業で実務経験を積めるということもメリットです。様々な理由により首都圏に移住できない方がいることを考えると、フルリモート勤務は新たなワークスタイルの1つとして確立されていくでしょう。
まとめ
当初、テレワークはなかなか導入されずに大手企業のごく一部で実施されていた働き方の1つでした。当初、導入が進まなかった理由は明らかで、日本企業の働き方に適していないからです。しかし、新型コロナの影響で状況は一変し、導入せざるを得なくなり急速に導入が進みました。その背景には企業側にも従業員側にも明確なメリットが見えていたからこそ、抵抗なくスムーズに進んだのでしょう。
特にIT企業は特殊な機器や環境も必要ない場合も多く、サーバのクラウド化や、外部とのネットワーク接続、開発環境などを構築しやすいということもあり、社外でも働ける環境の土台があったので、急激にテレワークが導入された。
リモートワークのいいところに目がいってしまい、コロナ禍も収束せずにいまだに猛威を奮っている状況下、1年半が経過したことで、いろいろな課題や問題が浮き彫りになってきています。日本的な働き方が続いている中小企業や一部の地方企業でやはりテレワークは導入されづらい結果がでています。
これから日本もJOBも型雇用にシフトしていくことは確実だと思われますが、果たしてそれを受け入れられるだけの環境が準備できるでしょうか。日本の働きからが染み付いている従業員は考え方を変えることはできると思いますか?
テレワークというメリットが多い働き方に見えていたものは、実は日本の働き方を根本から変える働き方改革以上の変革期の始まりなのではないでしょうか。
既にフルリモートで居住地に制限のないような求人も多数出ているIT業界ですが、未経験であっても学習を重ね、プログラミングスキルを習得し、技術に自信が持てるようであれば、居住地を限定せず転職を考えることも十分に可能な環境になっています。
以前であれば、IT企業に転職を考えると、やはり首都圏、関西圏などで仕事を探さないと選択肢が少なく、面接の際には上京するための旅費などがかかるという非常にハードルが高いものでした。現在ではリモート面接が一般的にもなっているため、以前と比べ障壁は非常に軽減しています。
リモートワーク疲れによるオフィス回帰が増えていると言われている昨今、リモートワークが働き方の1つとして定着することは間違い無いと思います。
首都圏ではオフィス回帰が進み、地方でのリモートワークが増えるような状況になっていくことも考えられます。IT人材不足が解消されることを願い、距離に関係なく全国のエンジニアに均等にチャンスがあるような環境になれば日本のIT業界も変革できるのではないかと思います。