従来の日本企業は、終身雇用や年功序列が一般的でした。しかし、近年の働き方改革により、従来の働き方に疑問が呈されるようになったことに加え、新型コロナウィルスの影響によるテレワーク拡大を受けて、欧米型の雇用制度であるジョブ型雇用制度が注目を浴びています。本稿では、ジョブ型雇用とはなにか、 今後 ジョブ型雇用が広がっていくのかなどを予想してみます。
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ジョブ型雇用導入企業の急速の増加
働き方改革の中で変化が始まっていた就業形態の変更などに着手していく中、新型コロナウィルスの影響により急にテレワークを導入することになった結果、雇用に関する状況は大きく動き始めています。
例えば、日立製作所が2024年に完全にジョブ型雇用への移行の表明、富士通が管理職15,000人を対象に2020年4月にはジョブ型人事に移行を完了、KDDIが2021年にジョブ型雇用を新卒採用で開始するなど、一部の企業でジョブ型雇用の導入を表明しています。
ジョブ型雇用導入の背景
以前より検討されてはいたジョブ型雇用の導入ですが、このように急速に導入が増加された背景とは何でしょうか。
新型コロナウィルスによるテレワークの拡大
新型コロナウィルスでテレワークを導入したことで、今まではオフィスで簡単に把握できていた勤務状況等が把握できなくなってきています。従来どおりの評価が難しくなった結果、勤務時間に沿った評価や報酬ではなく、どのようなアウトプットをもたらしたのかという成果をベースとする、勤務形態に合わせた評価制度、雇用制度の需要が高まっています。
同一労働同一賃金ルール
従来の多くの企業では、職務内容ではなく年功序列などの在職年数をベースとしたルールで運用されていました。しかし、まず大企業を対象として2020年4月から思考された同一労働同一賃金制度では同じ労働をした従業員には同一の賃金を支払うことを規定しており、従来の年功序列などのルールとの相違があります。そこで、雇用と賃金の相違を解消するため同一労働同一賃金ルールに即したジョブ型雇用に注目が集まっています。
従来のシステムの崩壊
VUCAと呼ばれる不確実な時代と言われる今、新たな技術や価値観の登場で企業の今後も見えなくなってきます。また、自分らしく働くという価値観が広まる中で、一生を一つの会社で過ごすと考えている人も減ってきています。このような時代の変化、従来の終身雇用や年功序列などのシステムが限界を迎えつつあることから、雇用制度の変革が促されています。
ジョブ型雇用とは?
ジョブ型雇用とは「仕事に対して人を割り当てる」雇用形態であり、海外で主流の雇用形態です。職務・勤務地・労働時間・報酬などを記述した「職務記述書」を元に雇用契約を結びます。それに対して、従来の日本型の雇用形態はメンバーシップ型雇用と呼ばれます。メンバーシップ型雇用では新卒採用などを中心にスタッフのポテンシャルを重視し、「人に仕事を割り当てる」形態です。
メンバーシップ雇用と比べ、欧米型のジョブ型雇用のメリットは企業側として必要な能力を持った人員を必要なタイミングで雇用できるため欠員に際した適切な人材を確保できることです。また、雇用者側も自身のスキルや能力にあわせて報酬や仕事スタイルが決めることができ、スキルアップが報酬に直結する、今後のキャリア形成で方向を見誤らないといったメリットがあります。
その一方で、企業側の状況による方針転換や経済状況の変化等、就業していた仕事がなくなった場合や人数が必要なくなった場合に解雇のリスクがあることや、業務経験の浅い新入社員は仕事を獲得しづらいというデメリットもあります。また、企業側も同じジョブを他社が好条件で出す等で人材確保の安定度が下がる、会社を経営していく上で重要なゼネラリストの育成など、複数のリスクを抱えることになります。
ジョブ型雇用による変革
ジョブ型雇用が導入されることで企業においても様々な変革がおきるでしょう。ここではジョブ型雇用で起きうる変化をご紹介します。
キャリア形成
従来は一つの企業に一生属する事を前提でキャリア形成を検討していました。そのため、仕事以外にも政治的な根回しなどが必要な場合もありました。しかし、ジョブ型雇用の場合は、キャリアに応じて転職するようになり、良くも悪くもキャリアは個人の選択次第になっていくでしょう。
働き方
メンバーシップ型雇用では、オフィスに5日出社するのが一般的でした。しかし、ジョブ型雇用の場合は評価も成果主義となるため、在宅勤務、テレワーク、サテライトオフィスなど個人それぞれに合わせた柔軟な働き方が可能になります。
評価制度
従来のメンバーシップ型雇用では、勤務態度などのソフトスキルなども評価対象となっていました。しかし、ジョブ型雇用では働き方も個人ごとに異なってくる可能性があるため、このようなソフトの情報の評価ではなく成果での評価が中心となるでしょう。
採用制度
メンバーシップ型雇用では新卒一括採用が中心でしたが、ジョブ型雇用では中途採用、通年採用が中心になるでしょう。インターンシップの拡大も起き、実績を面接で評価し、新卒採用の入社時の配属や待遇に組み込めるようになるでしょう。
帰属意識
メンバーシップ型雇用では、一種の就社といわれるように企業に就職するという形式でした。しかし、ジョブ型雇用の場合は複数企業で働く複業を行う人も増えてくるなど、企業への帰属意識も低くなる可能性も高くなります。
日本と欧米での違い
ジョブ型雇用に関してご紹介してまいりましたが、日本ではまだ浸透はこれからです。そのため、すでにジョブ型用が普及している欧米などとは環境が違います。
例えば、欧米では雇用契約の内容に沿って告知をすれば、企業の方針転換などに応じて簡単に解雇が可能です。しかし、日本の場合では労働組合との協議が必要など解雇へのハードルが高いのが実情です。
そのため、まずは管理職からの適用するという方針を示している企業もいます。しかし、管理職への適用もそのジョブができるようになるためにサービス残業を重ねる結果になり労働環境を悪くしたり、制度を利用した中間管理職の人員整理を兼ねているという見方もあります。このようにジョブ型雇用の導入にはまだまだ課題もあります。
ジョブ型雇用が広まっていった場合、転職先を考える上での注意点
ジョブ型雇用が広まっていく中で転職を考える上で重要なのは、自身で決めなければいけないということです。メンバーシップ型雇用の場合は人材育成やキャリアなど、ある程度企業側でルートが決められている場合もあります。しかし、ジョブ型雇用の場合は自身でどのような働き方をしたいのかを考え、キャリアアップするための自己研鑽などが常に必要になります。このように自身でキャリアをコントロールする意識が必要になります。
また、ジョブ型雇用の場合の課題としてミスマッチが起きることを認識することです。ミスマッチとは、入社したけれど自分にその仕事が合わなかったということや、その仕事自体のニーズがなくなってしまったなどのことです。従来のメンバーシップ型雇用の場合は、異動などにより新たなチャンスを探すという可能性がありました。しかし、ジョブ型で異動などは難しいため常に転職という選択肢を頭に入れておく必要があるでしょう。
今からジョブ型雇用への切り替えを想定して考えておくべきこと
今はまだ大企業を中心に導入が進められている段階ですが、中小企業にもその波が押し寄せてくることは十二分に予測されます。複数の業務を担うことの多い中小企業でのジョブ型雇用がどのような形になるのかは予測が難しいところですが、ジョブ型雇用が一般化していくことでキャリアの考え方が大きく変わっていくと思われます。
例えば、今までは30年同じ企業内でキャリアを積み重ねていくという考え方が一般的で、キャリアアップについては企業が提示してくれることが普通でした。しかし、ジョブ型雇用では3~5年などの短期的な期間で挑戦を繰り返すことが求められるようになります。そのような雇用を意識すると、今後は常にチャレンジを意識して新たな専門性やスキルを取得するなど、自身でキャリアを高めていくことが必要になっていくことが予想されるでしょう。
特にエンジニアやデザイナーでは技術力重視の面が強く、能力や実績で評価をするジョブ型雇用での評価は同年代でも大幅な賃金格差を生む環境になると思われます。インターンシップの実施も増えており、その間の成果によっては新卒採用でも中堅社員以上の年収を得るチャンスがある反面、業務の傍らで自己研さんに励まなければ昇給も期待できなくなるといった競争率の高い環境の訪れを懸念する声も聞こえます。
また、ジョブ型雇用は悪用すれば専門外のジョブ雇用を強要して未達成=退職に押しやるリストラの手法となります。ジョブ型雇用ならば業務消失による解雇が適法となるという可能性も論じられているため、流れによっては今までの終身雇用でキャリアを築く働き方をしてきた世代などは働き方の切り替えができないと先行き不安にもつながりそうです。
おそらく日本版のジョブ型雇用として状況が見えるようになるには数年かかると予測されますが、今のうちから自身のスキルを整理し、将来像を自分で考えていった方が良いのかもしれません。