新型コロナウイルスによる感染者の第二波は過ぎ去ったと言われ、政府主導の「Go To トラベル」「Go To イート」キャンペーンが国民の消費活動を活性化させる施策として大きな期待が寄せられている一方、東京都の新規感染者は依然として日々200人前後の規模で発生しており、新型コロナウイルスの感染状況はまだまだ沈静化したとは言える状況にありません。
また、企業活動においても生産や消費が一時停止状態に陥り、2020年4~6月期決算では大幅な減益や赤字が続出して航空など一部の業界では通期予想を示せない企業も相次ぎました。Go Toキャンペーンの様な政府の施策効果の結果はこれから期待させるものの、業績回復のスピードは非常に遅くなっています。
つまり、“先行きへの不透明感は拭えない“というのが企業活動の状態でしょう。それは企業の有効求人倍率にあらわれています。2020年1月には1.4倍程度あった正社員の有効求人倍率が6月時点で1.06倍まで急下落しており、新規採用の枠は狭くなってきていることがわかります。
このようにコロナ禍と言われる危機的な企業活動が続く現在でも、現職に不安・不満を感じ、仕事を辞めたいと考えているITエンジニアも一定数いらっしゃると思います。ここでは、その様な不安・不満がありつつも現職に留まるべきなのか、又は転職を積極的に考えチャレンジすべきなのか、考えを整理していきましょう。
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自己都合退職の傾向
従業員が希望して退職をすることを自己都合退職といいます。例えば、転居や結婚、家庭の事情などを理由に“自分の意思”で退職を申し出た場合、自己都合退職となります。現職に不安や不満があって退職する場合でも、自己都合退職になるでしょう。厚生労働省の職業安定業務統計によると、自己都合退職による退職は転職希望者の約40%を占めています。
驚くべきことは有効求人倍率が低下している状況下でも、新規求職者数を含めてこの傾向はコロナ以前とコロナ禍の現在でも変わらないという点です。
■自己都合離職者(e-STAT 一般職業紹介状況(職業安定業務統計)
・2020年7月 40%(新規求職者数254,714人中、102,145人が自己都合退職者)
・2020年6月 41%(新規求職者数276,461人中、112,648人が自己都合退職者)
~(略)~
・2019年7月 43%(新規求職者数260,403人中、112,245人が自己都合退職者)
・2019年6月 43%(新規求職者数239,976人中、102,601人が自己都合退職者)
なお、会社都合の退職は23%程度で、コロナ禍の2020年4月以降はそれまでと比較すると1.5~2倍近い数字になっています。
コロナ以前、コロナ禍の現在でも新しい仕事を探している方は変わらず存在し、40%程度の方が自己都合で仕事を辞めていることはわかりました。では、自己都合退職の理由はどうでしょうか?
新型コロナウイルスによってご自身・家族が感染し、そのサポートのために退職するというITエンジニアもいらっしゃると思います。新型コロナウイルスの直接的な影響による自己都合退職もあると考えますが、自己都合退職の上位の理由は “ほかにやりたい仕事がある” “給与に不満”など、普遍的な理由によるものから大きく変わらないことが多いでしょう。
■転職理由ランキング(総合)【1位~10位】
1位 ほかにやりたい仕事がある(14.7%)
2位 給与に不満がある(11.0%)
3位 会社の将来性が不安(9.7%)
4位 残業が多い/休日が少ない(8.0%)
5位 専門知識・技術を習得したい(5.3%)
6位 幅広い経験・知識を積みたい(4.2%)
7位 土日祝日に休みたい(3.6%)
8位 U・Iターンしたい(3.6%)
9位 業界の先行きが不安(3.5%)
10位 市場価値を上げたい(3.4%)
“会社を辞めたい”と考えたことのあるITエンジニアは多いはずです。でも、その“きっかけ”が本当に転職すべき理由になるのか悩んでいるようでしたら、その“きっかけ”を振り返って整理してみましょう。
それぞれに掘り下げて欲しいポイントを挙げています。ご自身の振り返りの参考としてください。
会社を辞めたい理由ははっきりしている?
まず、転職ランキングの上位にも掲載されている転職理由について見ていきましょう。
(1)ほかにやりたい仕事がある
現職ではやりたい仕事ができていない、今後の見込みもないと感じた場合、仕事を辞めたいと感じることがあります。給料や待遇ではなく、仕事にやりがいを求める方も多いからです。
ここで掘下げて欲しいポイントは、転職によって自身のキャリアが良い方向になるのか?という点です。
キャリアチェンジを志望される方は、やりたい仕事ができることで自身のキャリアアップになるのか、例えばITエンジニアから営業職にキャリアをチェンジしたいと感じた場合、それは自身の今後のキャリアにプラスになるのかを考えてください。(隣の芝生は青く見えるといったことにならない様に)
(2)給料に不満がある(今の給料、将来の給料)
今の会社の業績が上がっているにも関わらず自身の給与は上がらない、または給与体系として今後大きな給与アップが見込めないことがわかった場合、辞めたいと感じることがあるでしょう。
この場合、掘下げて欲しいポイントとしては、給与に不満があってもやりがいを優先できるのか?という点です。転職で自分にとってやりがいを感じられなくても給与面を優先した場合、その仕事を続けていくことはできそうでしょうか? それが難しい場合には、現在のITエンジニアとしてのスキル・経験を活かすことができる転職を決断してよいでしょう。
(3)会社の将来性が不安(会社の売上低下など)
新型コロナウイルスの問題はどの会社の業績にも影響が出ています。その結果を見た時に、会社の将来に不安を感じることもあるでしょう。
しかし、その業績低下はコロナ禍の一時的なものか、今後も恒常的に続く可能性がありそうなのか、多面的に掘り下げてみてください。一時的なものであれば、ご自身の杞憂だったと後悔することになりかねません。
仕事環境は業務内容だけでなく人間関係や勤務地、勤務時間といった多面的な要素です。同業他社への転職も含め、仕事環境の変化に慣れるまでは相応の時間が必要になり、その間は負担となることもあるでしょう。
(4)残業が多い/休日が少ない
働き方改革が進んできている中で、残業が多く休日出勤も余儀なくされる生活が続くと、会社を辞めたいと考えることもあると思います。このような時に掘下げて欲しいポイントとしては、残業や休日出勤が多いのは一時的か、恒常的か?という点です。
残業になってしまう原因と対応について、上長を交えて話し合いをしましょう。自身の負担を会社に理解してもらった上で、改善を図ってもらえるのであれば転職する理由は無くなります。逆に、その様な話し合いが行えない組織体質の場合、積極的に転職を考えるべき理由になってもくるでしょう。
(5)専門知識・技術を習得したい/幅広い経験・知識を積みたい
ITエンジニアであれば、誰でもスキルアップをしたいと考えます。プログラマからWebエンジニアや、ITコンサルタントの業務を担うためのスキルアップができることで、やる気が出たり、結果的に給与アップにつながったりするからです。転職することで、スキルアップやキャリアアップを実現したいとお考えの方もいらっしゃると思います。
この場合、掘下げて欲しいポイントとしては、現在の仕事を通じて次のステップに行くための知識(勉強)や経験は積めているか?という点です。転職先の企業に入ってから勉強します!という姿勢では、転職活動は難しいかもしれません。スキルアップに向けて自分自身の研鑽も大切なことです。
ここまでが転職ランキングの上位の理由でしたが、会社を辞めたいと思う“きっかけ”は他にも考えられます。
(6)現職の環境
・体力的に続けるのが辛い(通勤距離、残業や休出など)
掘下げて欲しいポイント:4番の要素とも重なりますが、問題は一時的なものか、今後も続くものかを考えておきましょう。会社に相談をすることで改善を図れるものか、相談の結果として会社は改善してくれるのか。相談しても改善が難しいものであれば、どのようにすれば改善を図ることができるのか。身体を壊してまで仕事を続けるものではありませんが、独りで問題を抱え込んで退職を決めるのは得策とは言えないでしょう。
・精神的な負担が大きい(休日も仕事の連絡がある、怒声の響く職場、etc)
掘下げて欲しいポイント:まずは環境の改善から試みてください。仕事の連絡であれば対応の要不要の判断やルールを定めてもらうことで負担を減らすことができるケースもあります。ただし、原因が人間関係に起因する負担の場合は改善が難しいケースもあり、そうなると転職の理由につながります。
・人間関係
掘下げて欲しいポイント:ハラスメントに関連することの場合、ケースバイケースではありますが直ぐに改善は困難なことが少なくありません。仮に改善をさせても後にしこりが残る解決になってしまうことがあり、転職を考える理由につながります。
・テレワークを取り入れない
掘下げて欲しいポイント:最近増えている転職理由ではありますが、一方的な不満であることが少なくありません。現職がテレワークを取り入れない理由が何か、しっかりと話し合って確認しましょう。そこに合理的な理由があれば、退職は再考すべきかもしれません。
(7)IT業界に不向き?
・勉強に疲れた
掘下げて欲しいポイント:IT業界は新しい技術が次々に登場するため、同じ業務内容が延々と続くケースは稀です。そういった意味ではITエンジニアは勉強続きと言っても過言ではありません。新しい技術の習得と業務での活用に面白みを感じることができない場合、IT業界に向いていないかもしれません。
・仕事が上手くいかない
掘下げて欲しいポイント:上手くいかないと感じている原因をもう少し詰めて考えてみましょう。それが分かってくることで、現職での改善の方向性が明らかになるかもしれません。 自身のITスキルの問題や、仕事を進める上で関係者との段取りが良くない、性格的に仕事内容が合わないなど、原因は様々なことが考えられるかと思います。
自分以外の要因が原因の場合もありますので、多面的に見る意味でも上司に相談する等で独りで答えを見つけようとしない方が良いでしょう。
(8)自分のやる気に課題
・仕事に行きたくない
掘下げて欲しいポイント:なぜ職場に行きたくないのか、その理由をもう少し自分に問いかけてください。これまでに挙げてきた理由の中に、該当するものが考えられるはずです。
・働きたくない(働く意欲が無い)
掘下げて欲しいポイント:どうして働きたくないのか、ITエンジニア以外の仕事なら意欲が出るのか? その理由をもう少し自分に問いかけてください。これまでに挙げてきた理由に繋がるかもしれません。それでも理由が分からない場合、一旦仕事を休んでみるのも方法の一つです。現職にて休職を相談してみるのもよいでしょう。
・プライベートで嫌なことがあった
掘下げて欲しいポイント:プライベートと仕事は別物ですから、気持ちを切り替えて、割り切って続けられるかが大切です。それが難しくて、落ち着いたら仕事を続けたいという気持ちがあれば、転職ではなく現職にて休職を相談するのも手です。
(9)自身の働き方を変えたい
・フリーランスになりたい
掘下げて欲しいポイント:フリーランスになる目的を明確にしましょう。メリットだけでなく、リスクも考慮します。案件を確保できなければ無収入ですし、望む案件が無ければ不本意でもやりたくない仕事をする必要が出る場合も考えられます。営業や経理も自分でやっていけるのか、という点も含め多面的な評価をしましょう。
退職理由と転職理由を明確にしよう
先にあげた会社を辞めたい“きっかけ”は、それぞれの環境によって異なることでしょう。
重要なことは、辞めたい“きっかけ”には退職したい理由と転職したい理由があるということです。今の会社に不安や不満があって退職したいと考えるのは、どちらかと言えばネガティブな理由です。一方で、ITエンジニアという職種の中でキャリアアップをしたいけれども現職ではその実現が難しいから転職したい、と考えるのは自分の将来を考えた上でのポジティブな理由になります。
仕事を辞めたいという思いがネガティブな理由しかない場合、良い転職先を探すことが難しいかもしれません。“いまの職場が不安・不満なので転職したいです”という理由を転職希望の企業が聞いたら、どう感じるでしょうか。
おそらく、良い結果には繋がらないことでしょう。
ネガティブな理由がきっかけだとしても、転職活動を成功裏に収めるためにはポジティブな理由が自分の中で明確になっていて、ちゃんと腹落ちしていることが大切です。もし単純に現職で働きたくないと感じているものの、自分のキャリアアッププランまでは考えていない場合には、一度立ち止まってその原因を整理してみてください。
ITエンジニアの求人は売り手市場
コロナ禍であってもIT業界への求人は相変わらず売り手市場です。新型コロナウイルスによって以下の様な社会の変化が生まれ、ITの重要度が更に高まっています。
・3密が維持できるネットビジネスやデジタル化が加速した
・店舗での決済についてタッチレス化が加速した
・生活スタイルや働き方の変化が進み、サービスや商品の需要が変化した
他業界と比較すると、IT業界だけが高い有効求人倍率を維持しています。中でもITエンジニアは普遍的なスキルを保有しているため、企業の採用意欲は高いといえます。
会社を辞めたい理由での整理をした上で、退職理由は明確になっても転職理由が明確になっていない方もいらっしゃると思います。幸いにしてIT業界内での転職は売り手市場であり、技術と経験があれば転職の機会を掴めるのがITエンジニアです。今の環境で改善が難しそうならば、割り切って転職を考えてみてはいかがでしょうか。
きっかけの都度自分を見つめ直す
今回は転職活動をはじめるきっかけとして、会社を辞めたいと何となく感じているITエンジニアの皆さんの理由の整理を行いました。会社を辞めたいと思った“きっかけ”は、現職に対する不安・不満からであることが多いでしょう。その時には、まずは自分自身をしっかり見つめ直しましょう。
なぜ会社を辞めようと思っているのか。“ネガティブ”な要素だけでなく、どの様な仕事にチャレンジしたいのかキャリアアッププランの“ポジティブ”な要素も併せて考え、転職を思い立った理由を掘り下げることが大切です。また、今の自分が持つスキルや経験についても洗い出しておきましょう。
コロナ禍の有効求人倍率は決して高くありませんが、IT業界のなかでもITエンジニアに対する求人倍率は常に“売り手市場”です。明確な理由が固まったITエンジニアの皆さんは、その理由をクリアできる転職先を積極的に探していくと良いでしょう。
まとめ
転職はしたいけど踏み切れないという方は、一度業界専門のエージェントに相談して自分の市場価値や転職できるかどうか等、不安なことを解消してみてはいかがでしょうか。
きっと先の転職理由をはっきりさせる整理ができることでしょう。
転職は決して悪いことでは有りません。チームに迷惑をかけると思っていても、実際に自分が抜けたところでプロジェクトは正常に回っていくのです。
貴方のこれからのキャリアパスを考えて、いまの職場がふさわしくないと思うのであれば転職することも1つの手です。