新型コロナウイルスの感染拡大による政府の緊急事態宣言は、既に3回目を迎えましが、未だに終息の目途は立っていません。緊急事態に基づくStayHomeの生活スタイルは、経済活動を大きく変えました。デリバリーサービスの増加、ECサイトの利用拡大、リモートワークなど最近、変化が大きかったものが数多くあります。
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変わりゆく生活スタイル
中でもリモートワークの推進は、人流を削減するために最も効果があると、政府と東京都からの強い要請が出ています。
その影響からか、2020年9月に東京都が発表した「テレワーク導入実態調査結果」によると、2019年の調査では25.1%だった導入率が、2020年では57.8%にまで上昇しています。明らかにリモートワークは新しい働き方として広がってきています。
一方で、リモートワークに対する課題も明確になってきました。
日本生産性本部が行ったリモートワークに関するアンケート調査によると、リモートワークで課題だと感じているのは、在宅の物理的環境の整備やWifiなどの通信環境の整備が上位を占めていますが、それ以上に、「資料・データのネット上での共有化」が課題として挙げている意見が多いことが注目されます。
「社内資料やデータ」という観点では、ファイルサーバ上に社内資料、営業資料などを大量に保存しており、必要に応じてそれらを活用して新しい資料や顧客向け提案を作成しているという業務プロセスはどの会社でも行われていることです。
自身のパソコンのローカルディスクに顧客関連資料を保存しておくことは、データ量の問題、そして情報セキュリティの観点から推奨されていないためです。
この業務プロセスについては、リモートワークとなった場合でも当然継続的に発生します。顧客向け提案書をファイルサーバからダウンロードして編集後、営業活動に利用するためです。
自宅から自社のファイルサーバへのアクセスについては、インターネット環境の整備されている企業では、VPN(Virtual Private Network)を介して許可することになっていることでしょう。VPN経由でのファイルサーバへのアクセスとすることで、社内でファイルサーバへアクセスする場合に比べても遜色の無い、セキュリティレベルが維持できるからです。
しかしながら、ファイルを開いたり、ダウンロードする時間については、社内でのアクセスに比べて圧倒的に遅いと感じた経験は誰でもあることです。ファイルサイズの大きいパワーポイントのファイルなどであれば、尚更でしょう。
VPNは、データを暗号化して情報のやり取りを行うセキュリティ性の高い回線のため、その分速度が遅くなる時があります。また、そもそもファイルサーバの空き容量が少ない場合、その少ないスペースでのファイルの書き込み・削除が行われることで、ファイルの断片化が進みファイルを開くスピードが遅くなってしまうこともあります。
このような背景からか、社内に設置されていたファイルサーバをクラウド化を希望する企業が増えてきていています。リモートから、ファイルサーバへのサクセスが増え、ハードウェアの保守をする方もリモートとなり、社内にサーバを置くことにデメリットを感じている企業も多いようです。
そこで、ファイルサーバのクラウド化について、そのメリット・デメリットを整理した上で、いくつかのクラウドサービスについてご紹介します。
ファイルサーバとは
まず、ネットワーク上でファイルを共有するために設置されるサーバのことを、ファイルサーバといいます。利用者が管理しているファイルをネットワーク上のほかのコンピューターと共有することで、外部から閲覧したり書き込んだりできます。
ファイル共有のプロトコルには、代表的なNFS(ネットワークファイルシステム)が使用されることが多く、さまざまなOSから利用できるファイルサーバを構築できます。ファイルサーバは代表的に以下の3種類があります。
NFS(ネットワークファイルシステム)
ファイルを共有するためのストレージを持ったコンピューターのことを言います。Windows、UNIX系システムそしてMac OSでも利用が可能です。NFSが有効活用できるのは、複数のサーバーで同じファイルにアクセスしたい時などです。
Server Message Block
Server Message Block (SMB) は、主にWindowsで利用されているファイル共有のプロトコルです。
クライアント用OSのWindows 8.1, 10、サーバ用OSのWindows Server 2016, 2016 R2, 2019に標準搭載されています。
FTPサーバ
Webサーバに接続されたサーバ上で、Webページ用のファイル(画像やHTMLなど)をクライアントからWebページへアップロードしたり、反対にWebページからクライアントがダウンロードしたりする時に利用されます。
最近では、ファイルサーバ機能に特化した、NAS(ネットワークアタッチトストレージ)と呼ばれる専用機もあります。
ファイルの共有ができるという点が類似しているものの、外付けのハードディスクとしての位置付けが強く、機能はファイルサーバーと比べると機能の柔軟性や拡張性に欠けています。
ファイルサーバを導入する目的とは
ファイルサーバを導入する目的は、利便性の向上と運用面での強化です。
社内外に対して、必要なファイルをネットワーク経由で公開したり、共有することで、共同作業化にも役立ちます。
営業資料や提案書を各個人のパソコンのローカルディスクディスクに保存していると、容量不足になり、セキュリティ面での不安もあります。ファイルサーバにそうした資料を保存しておくことで、パソコンの管理を強化する目的もあるでしょう。
そして、ファイルサーバはバックアップにも利用できるため、運用管理の負担が減ります。バックアップを一元化することで、データ信頼性の確保につながります。
社内ファイルサーバの課題とは?
そうした利便性の向上を目的としたファイルサーバについて、課題点もあります。
- サーバを管理できる人をアサインしなくてはならない
ファイルサーバを管理できるスキルを持っている人材をアサインしなければなりません。セキュリティ対策を施し、障害が発生した場合には迅速に解決に当たる必要があります。 - 災害時や、ビルの停電など、対策が必要になる
社内ファイルサーバを設置している場所のビルの防災対策に準じた対策と対応が必要です。ビルの法定停電があった場合、サーバの停止と翌日の再開稼働確認をしなければなりません。 - サーバなどのハードウェアは一定期間で入れ替えが必要
フィアルサーバも数年経過すれば老朽化対応が必要です。新しいハードウエアの購入と移行作業を行う必要があります。 - サーバの増設など、運用を止める必要がある
ファイルサーバのディスク増設をする場合には、サーバを一時的に止めなければなりません。利用者への事前告知が必須です。 - サーバの設置スペース
社内のサーバールームやデータセンターでの設置スペースが必要です。安定稼働のためには、バックアップシステムや無停電装置などの用意も必要不可欠です。
これらの社内のファイルサーバに対する課題への対応の観点からファイルサーバのクラウド化を検討する企業が増えています。
ファイルサーバをクラウド化するメリット
ファイルサーバをクラウド化することによって、サーバの管理業務からの解放という観点だけではなく、ファイルサーバ利用者の観点からもメリットを享受できます。
管理面でのメリット
- ハードウェアの管理や保守が必要なくなる
ファイルサーバのクラウド化によって、サーバー機器自体を管理する必要がなくなり、システム管理業務が軽減します。 - 設置スペース、コストが不要
ファイルサーバーをクラウド化することで、サーバーやハードウェアを保有する必要なくなり、購入費に加えて、スペース代、その他ファイルサーバ維持のためのランニング費用が削減できます。 - セキュリティレベルが向上
クラウド化されたファイルサーバは、各認証機関から承認を得て運営されているデータセンターにて運用されています。安全な環境で利用できるのもメリットでしょう。ウィルスチェックが標準搭載されているサービスもあり、データのやりとりを安心して行うことができます。
利用面でのメリット
- ストレージの増設なども容易(H/W追加の必要がない)
クラウド化したサーバーなら、オプションサービスを利用して数日で容量を追加できます。すぐにシステムの拡張ができたり、ストレージを追加できたりするのもクラウド化のメリットです。 - サーバが停止してしまうことがほぼ無い(バックアップが容易)クラウドサービス提供ベンダーが可用性の高い強固なシステムを用意しています。また、保存されているファイルのバックアップについても提供ベンダーが実施するため、可用性の高いファイルサーバを利用できます。
更に、冒頭でご紹介したテレワークという観点では、VPNを介した社内ネットワークへのアクセスが不要になるため、利用者のファイルアクセス・ダウンロード時間が大幅に早くなり、業務効率の向上が期待できます。
ファイルサーバをクラウド化するデメリット
ファイルサーバーをクラウド化することで得られるのは、メリットだけではありません。社内ファイルサーバを利用していた時とは異なる環境での利用となることで、デメリットも発生します。
- インターネットネット回線への依存
Wifiなどのインターネット回線自体が遅い場合、または利用できない場合、そもそもファイルサーバのラウドサービスを利用できない場合があります。インターネット回線に依存する点がデメリットとなります。 - 外部環境のためのセキュリティ対策が必要
ファイルサーバ上にあるドキュメントについては機密性の高いデータも存在することでしょう。クラウドサービスベンダーにてセキュリティ対策は施されているものの、インターネット上のサービスであることを考慮すると、保存されている機密性の高いデータについては、クラウドサービスのファイルに対して、セキュリティレベルを高めるための対策が必要になることでしょう。 - 社内サーバよりもコストがかかる場合がある
社内にファイルサーバを設置する場合には、ファイルサーバの購入費用(減価償却)が主な発生コストとなりますが、ファイルサーバのクラウドサービスを利用する場合には、月額の利用料が利用期間中発生します。減価償却の残存期間によっては、月額の利用料の累計金額が上回る可能性もあります。
クラウド化する目的に応じて最適な選択をしましょう
クラウドファイルサーバを選ぶ際には、ご紹介したメリットを生かすことができる一方、デメリットが最小化されるような利用方法が最適となるでしょう。そこで、目的に応じたクラウドファイルサーバーの選び方や注意点について確認していきます。
- 社内向けファイルサーバ
社内用ファイルサーバは、これまでのファイルサーバと操作性が近いものを選びましょう。あまりにも操作性が異なると、使いづらく感じたり慣れるのに時間がかかったりするなど、使用する社員の作業効率が悪化するおそれがあります。 - 外部とのファイル共有
社外とのファイル共有には、ブラウザベースのファイル共有の機能を利用するのがおすすめです。ブラウザベースのクラウドサーバーなら専用ソフトやネットワークの設定が不要であるため、外部の方とのやりとりに適しています。 - バックアップ・アーカイブ
バックアップやアーカイブ用のファイルサーバーには、誰にでも操作しやすいよう、シンプルな機能のサーバーがおすすめです。またバックアップやアーカイブ用に使うだけの場合は、低価格なものを選定したいです。
クラウドファイルサーバのサービス、機能は?
クラウドファイルサーバのサービスの中で、代表的なサービスについて提供機能をご紹介します。
クラウドストレージ
クラウドストレージとは、データを格納するためインターネット上に設置されたスペースです。パソコン内のストレージや社内のファイルサーバーを利用しなくても、大事なデータの保存が可能です。Dropbox, OneDrive, Googleドライブといったサービスが代表的なサービスです。
【メリット】
最大のメリットは、外出先でもパソコンやスマホから直ぐに該当の資料を確認できる点です。クラウドストレージ上でファイルの
編集も可能です。管理面での負荷軽減については既にご紹介の通りです。
【デメリット】
クラウドストレージはユーザ課金になっていることが多い為、ランニング費用が高くなります。
AWSなどのサービス
パブリッククラウド大手の「Amazon Web Service」、「Microsoft Azure」、「Google Cloud Platform」が提供するファイルストレージサービスがあります。これら3大プロバイダーはいずれもNAS(ネットワーク接続ストレージ)サービスとNetAppストレージベースのハイパフォーマンスなファイルストレージを提供しています。
いずれも、ファイルデータの共有アクセス機能を提供するサービスとして、ファイルの作成・削除・変更・読み出し・書き込みが可能となるサービスに加えて、クラウド上に存在するファイルデータへのアクセス権を設定することができるようになっています。
【メリット】
クラウドストレージでご紹介したメリットに加えて、3大プロバイダーが提供するサービスであるため、高い信頼性があります。また、ファイルサーバのクラウド以外の目的から、既にいずれかのプロバイダーのサービスを利用している場合には、管理面・費用面でのシナジーが出てくるかもしれません。
【デメリット】
クラウドストレージでのデメリットに加えて、ファイルサーバとしての運用方法に制限があります。ローカルのファイルサーバでは実現できていたことが、不可能になる場合があります。
ファイル転送サービス
ファイル転送サービスは、メールでは送れないような「大容量のファイル」の送受信が可能です。
まず、送信者がインターネット上にファイルをアップロードします。そして、受信者が対象のサイトやURLにアクセスし、ダウンロードすることでファイルの共有ができます。 宅ふぁいる便が有名なサービスです。
【メリット】
ファイル共有サービスの手続きは簡単にできます。共有したいファイルをインターネット上にアップロードすることで、共有したい
相手に対して、アップロード先のURLが案内されることで、該当ファイルだけを迅速にセキュアに共有できます。
【デメリット】
ファイル転送サービスはファイルの保存を目的とせず、ファイルを保存できる期間が決まっているツールもあるので注意が必要です。
クラウド化した場合の価格は?
クラウドファイルサーバを選ぶには、コスト面のチェックも必要です。プランによって価格設定が異なるので、自社の利用状況を踏まえてプランを決めましょう。
・ユーザ課金の場合
ユーザー課金のあるサービスでは接続ユーザー数に応じて費用が変わります。接続ユーザーが増えれば増えるほど費用が高くなるため、接続ユーザー数が変動する企業には不向きかもしれません。
・従量課金の場合
1GB当たりのストレージ月額費用が決まっており、また、クラウドサービスによっては、ファイルの書き込み量に対しても、1GB当たりの単価設定がされています。上限設定が無いため、毎月書き込み、保存するファイルの変動幅が大きいような運用の場合でも対応が可能です。
・ストレージ量による課金
ストレージ総容量ごとの課金体系の場合、携帯電話の料金の様に、上限サイズまでは定額で、それを超えた場合、1GB当たりの追加費用が発生するという体系です。利用人数に関わらないため、特定の目的で決まったファイルを共有利用する場合には、向いていますが、利用者各自が自由にファイルを保存する場合、容量の上限に注意しなければなりません。
テレワークに適したファイルサーバの環境とは
前述の通り、テレワークの促進を契機として、ファイルサーバのクラウド化を検討することになった場合、以下の検討を行うことで、クラウドサービスが有効なのか、場合によっては社内ファイルサーバのまま外部からVPNで接続するという方法が適しているのか方向性が見えてきます。
(1)利用目的と利用人数を明確にします。例えば、ファイルサーバの内、全員が頻繁に利用し変更する必要があるファイルを対象にすることで利便性が大きく向上します。バックアップ目的なら、大容量が必要ですが利用者は最小で構いません。
(2)検討基準を決めます。「アクセススピード」「費用」「メンテナンス性」「セキュリティ」の4点がその候補です。
VPN経由で社内ファイルサーバのファイルを開く場合に比べ、非常に短い時間でファイルを開ける様になることが大前提です。その上で、管理面・セキュリティ面が一定水準をクリアしていれば、利用目的に合致した価格体系のクラウドサービスを選定しましょう。
まとめ:目的と活用方針が重要
ファイルサーバのクラウド化した場合のメリットやデメリット、クラウド化する場合の方法についてはどのようなものがあるかをお伝えしてきました。
テレワークの拡大によって、社内のファイルサーバへVPNアクセスするユーザが増えてきたことで、その課題が露呈し、クラウドサービスへの移行を検討する企業が増えてきました。まだ、長期的に続くと思われる、テレワークを前提とした場合、自社のファイルサーバはどの様に運用していくべきか、見直しのタイミングと捉えましょう。
その際、ファイルサーバ・クラウドサービスのメリットが生かせる、活用目的やサービス内容、価格などを総合して選ぶのが大切です。
ファイルサーバを個人のローカルディスクの様に、自由に保存するストレージエリアとして利用したいのか、複数人が共用でアクセスし、活用できる為のワークスペースとするのか、活用イメージを確定させます。
情報システム部門に人が割けず、エンジニアが情シスの役割を兼任されているようなことも多いでしょう。ファイルサーバに関わる管理業務が、本来の業務の足かせになるようであれば、それもクラウドサービスの活用目的となります。
クラウドサービスは毎月費用が発生しますので、長期的な視点では、社内ファイルサーバを購入よりもトータルコストは増える可能性もあります。ご紹介したような、基準を参考に多角的な検討を行い、全体を通して何がメリットかを導き出して下さい。