2020年は新型コロナウイルスの感染拡大と緊急事態宣言の発令によって、国内の生活は大きく変化しました。ニューノーマルといわれるコロナ禍における変化に対応した人々の働き方、消費行動が変わり、それがノーマル(定着)しようとしています。
リモートワーク、非接触購買、ECの拡大、デリバリーサービスなどニューノーマルな生活様式が2021年に入っても続いていることで、企業活動でもそれらを意識した事業への変革を余儀なくされています。それらの変革には全てITの変革が必須になっています。リモートワークであれば、ビデオ会議システム、セキュリティ、オンライン承認。ECやデリバリーサービスについては、オンラインでの注文、在庫管理などが挙げられるでしょう。
ITに対するニーズは今後も増えていくことは明確です。
20代専門転職サイト「Re就活」を運営する学情が2020年4月に発表した意識調査の結果では、「転職をする際に魅力を感じる業界」を尋ねたところ、「IT・通信・インターネット」が37.8%で最多となりました。 その理由としては、テレワークなどの柔軟に働き方を変えられることに加えて、「自分自身のスキルを磨きたい」「今後も需要のある業界で成長していきたい」といった意見が多かったとのこと。
このようにIT業界、ITエンジニアへのニーズは今後も高まる一方ではあるものの、IT業界未経験の応募者が増えてくれば必ずしも広き門とはならないこともあります。
近年は未経験からプログラマーになるためのeラーニングやプログラミングスクールが増加し、初心者でも簡単に学習できる環境が整ってきています。独学でITスキルを身につけた転職市場の競合相手は増加が続いていますので、他の未経験者との差別化を図っておきたいところでです。
そこで、本書では未経験者がITエンジニアとして転職したい場合に心掛けたい3つの原則について確認していきます。
1.未経験者だとしても、一定水準のIT関連資格は入り口として必要
2.企業のニーズが高いスキル、開発言語を勉強しましょう
3.ITエンジニア経験者とは違う自身の強みを生かした転職活動とする
それぞれについて詳しく見ていきます。
Contents
未経験者が取得した方が良いIT関連の資格とは?
未経験者がITエンジニアに転職しようとした場合には、IT関連の資格をとっておくことで実務経験の無さを補い、スタートラインに立つための採用基準のひとつにしていることは間違いありません。
そこで、どの様なIT関連の資格が有効なのか確認してみましょう。
IT系の資格には国が主催する「国家資格」と、MicrosoftやOracleなどの民間企業が主催している「ベンダー資格」があります。
国家資格は特定企業の製品に関する知識ではなく、幅広いIT知識を問う国家資格です。「基本情報技術者」「ITパスポート」などの有名な資格も多く、資格名だけは耳にしたことがあるのではないでしょうか。 国家資格はIT系のどの職種やポジションにおいても共通して通用し、企業側も国家資格に対する信用や評価が高いため、優先的に取得を考える傾向があります。
ベンダー資格は主催している企業の製品に関する問題が出題され、一定以上の点数を取ることで資格が認定されます。特定製品に特化した資格のため、転職先の企業にマッチする資格であれば、すぐに業務に生かせる特徴があります。
Tech総研が25歳~39歳までのIT系の職種に就いているエンジニア1000名に対して行った資格に関するインターネット調査の結果を見ると、基本情報技術者やプロダクトマネージャーなどの国家資格が優先されている結果となっており、次いでOracle、Javaなどのベンダー資格となっています。
そこで、国家資格、ベンダー資格それぞれについて、未経験者であっても取得のハードルが比較的に低いものの、資格としての有効性は高い資格についてご紹介していきます。
国家資格:ITパスポート
ITパスポートは、IT系の入門資格の1つです。
公式サイトに「ITを利活用するすべての社会人・これから社会人となる学生が備えておくべき、ITに関する基礎的な知識が証明できる国家試験です」と記載がある通り、ITの基礎知識が対象となっているためITエンジニアの資格としては評価を期待することは難しいと言われています。
社会人として経験を重ねていれば需要は減りますが、自身の職歴では知識不足と感じた場合などは勉強を進めてみるのも良いでしょう。履歴書への記載に関わらず、自分の自信のために取得するのも選択の1つになります。
国家資格:基本情報技術者
IT系の資格で最も有名と言ってもいいのが「基本情報技術者」です。
IT業界で働く人を対象とした国家資格で、データベースやネットワーク、プログラミング言語に関する基本的な知識を証明する資格です。IT業界で働くための基礎が一通り学べるため、未経験者がこれから取得するのに適した資格です。
スクール等でプログラミングを学んだ場合、プログラムを作ることはできてもシステム開発業務全体の流れを知らない状態に陥ります。基本情報技術者資格は自分が何をやっているのか、プログラミング以外の業務にどんな理由と意味があるのか等、実務に関係する知識を深めることができるでしょう。
上位資格に応用情報技術者資格もありますが、こちらは実務経験者向けの内容が多くなります。未経験での取得は困難ですが、実務経験を得られた後のステップアップとして、より深い知識を得ることができるでしょう。
国家資格:システムアーキテクト
システム開発に必要となる要件定義、システム方式の設計など、システム設計に関する技能を証明する資格です。プログラミングのスキルよりも、現状業務フローの改善点を見つける、顧客からの要件を分析、整理するなどの設計スキルが求められます。
合格率も13%程度と難易度の高い資格となっており、経験者向けの資格でもありますから将来的な目標の1つとして考えるのが妥当です。
ベンダー資格:LPIC
LPIC(Linux Professional Institute)は世界中で実施されているLinux技術者認定試験で、Linuxに関するスキルを証明する資格です。LPIC-1〜3までのグレードがあり、LPIC-1がLinux入門者向けの資格で、LPIC-2以降は「Linux実務経験者向け」の資格になっています。
LinuxはIT業界では「Webサーバー」や「データベース」など、さまざまな用途で利用されているOS(オペレーティングシステム)です。
さらにDockerなどの「コンテナ仮想環境」の登場により、プログラマーが利用する開発環境においてもLinuxは利用されるようになりました。IT技術者にとって、Linuxの基本的な知識・操作は必須といえる状況です。
ベンダー資格:ORACLE MASTER Oracle Database
ORACLE MASTERはOracle社が主催するベンダー資格です。同社が提供するOracle Databaseの知識や、SQLのスキルについて認定します。
Oracle MASTERには4つの難易度でグレードがあり、Bronze、Silver、Gold、Platinumと順に資格取得の難易度が上がっていきます。その他にもPL/SQLのプログラムスキルを認定する資格もあります。
Oracle Databaseに関する資格ではありますが、基本的な考え方やSQLの記述スキルは他のデータベースにも応用できる部分が多いため、データベースの学習に適した資格です。
ベンダー資格:Microsoft Office Specialist(MOS)
Microsoft Office SpeacialistはMicrosoft社のOffice製品に関する資格です。資格はOffice製品(WordやExcel等)ごとに別れており、製品バージョンや資格のバージョン(一般レベル/上級レベル)で細分化されます。
ITエンジニアとして資料や仕様書の作成でOffice製品を使うため、必要最低限の使い方は把握しておくのが良いのですが、MOS資格の必要性は正直なところ多くありません。履歴書に記載しても評価には繋がりにくいため、自身の知識のために学んでみるかを選ぶところでしょう。
ベンダー資格:PHP技術者認定初級試験
PHP技術者認定試験とは、広く使われているスクリプト言語であるPHPの技術を有していると認定する試験です。PHPはHypertext Preprocessorを略したもので、HTMLに埋め込むことができるコードです。
使いやすく汎用性の高い言語であるため、多くの企業で採用されています。PHPは数あるサーバー側プログラミング言語の中でも特にシェアを伸ばし続けており、2020年時点で78.7%を占めるほどになりました。
インフラ寄りのITエンジニアを志向する場合には、PHP技術者資格はぜひ取得しておきたい資格の一つです。
ベンダー資格:Javaプログラミング能力認定試験
Javaはプログラミング言語のひとつで、IT企業の開発現場でよく使われています。Javaプログラミング能力認定試験はJavaの知識がどれくらいあるかを測り、プログラム作成能力を認定する資格試験です。
OSに依存しないJavaの技術は重要視されており、Javaプログラマーの数が不足していることから、Javaプログラマーへの求人は最も多くなっています。(次項のプログラミング言語別・求人件数参照)
Web開発のITエンジニアを目指す場合にJavaの知識は不可避で、重要となる資格です。
ベンダー資格:Python3エンジニア認定基礎試験
PythonはAI技術には欠かせないプログラミング言語としても有名です。Pythonは現在、Python3まで出ています。さまざまな機能が追加されていますが、通常のプログラミング言語と違いPythonは、どんなに開発されても初心者にもわかりやすい内容となっています。基礎試験は未経験者がPythonエンジニアを目指す際に取得するのに適しており、Pythonに関わる基本的な内容を一通り学習すれば合格できるレベルです。
AI関連のITエンジニアを志向したい場合は、是非チャレンジしておきたい資格になります。
企業ニーズの高い、学んでおくべきスキル、開発言語は?
プログラミングの資格試験にチャレンジする場合には、「どれを学ぼうか?」と迷うこともあるでしょう。
Web制作/スマホアプリ/AI開発など、開発分野によって使用するプログラム言語は異なり、自分が進みたい分野が明確な場合には、それに沿ったプログラム言語を学習することをお勧めします。
一方で、明確に自分の進みたい分野が決まっていない場合や、とりあえずITエンジニアとして経験を積みたい場合は企業ニーズに基づく開発案件の多い言語がオススメです。
ITエンジニア専門求人サイトなどを見ると、求人票にはどの技術を使用するか必ず記載されています。また、フロントエンドやサーバーサイドなどプログラミング言語の用途別に求人が出されていることが一般的です。
技術の流行や市場のニーズの増減に合わせる形で、求人数にはプログラミング言語別にトレンドがあります。転職やスキルアップのために、プログラミング言語を学習する予定の方にはぜひ知っておいて欲しいところです。
プログラミング言語別・求人件数(2020年9月30日現在 参照元:レバテックキャリア)によると、Top10は以下の様になっています。
順位 | プログラム言語 | 求人件数 |
1位 | Java | 2,989 |
2位 | PHP | 2,280 |
3位 | JavaScript | 2,172 |
4位 | Python | 1,449 |
5位 | Ruby | 1,372 |
6位 | HTML、CSS | 1,242 |
7位 | C# | 1,153 |
8位 | C、C++ | 744 |
9位 | Swift | 658 |
10位 | Objective-C | 588 |
上の表で示すとおり、求人件数はJava、PHP、JavaScript、Python、Rubyの順に高くなっています。これからプログラマーを目指す方は、やはりニーズの多い言語を学ぶことがおすすめです。
Java
JavaはPythonと同じくGoogleの三大言語の1つで、日本で見る求人数では長年トップの座をキープしている人気のあるコンパイラ言語になります。JavaはWebアプリケーションやAndroidアプリ、組み込みシステムなど、さまざまな分野で使用されており、開発案件も非常に多いプログラム言語です。
大規模な業務システムを導入している企業などは、Javaで開発していることが多いです。また、Androidアプリの開発もJavaで行います。
Javaの開発環境を整えるにはJDKやEclipseなどのインストール等の手間が必要でしたが、近年ではAWSの「Could 9」やオンラインでコードを書いて試せる「paiza.io」など、ブラウザだけで開発できる便利な環境が整っています。
PHP
PHPはサーバーサイドのWeb開発に特化したスクリプト言語です。求人数はJavaに次いで2位となっており、まだまだ需要のある言語と言えるでしょう。記述がわかりやすく、初心者向けの言語として人気が高いです。
そんな人気のあるPHPですが、記述しやすい反面でコードに間違いがあっても動いてしまう場合も。後々予期してないエラーが現れてしまうこともあるので、正しいコードを書く意識を常に持っておくべき言語です。
また、サーバーサイドに限定されるため、汎用性も低めになります。それでも、求人数の多さ・資料の豊富さ・学びやすさといった点から十分におすすめできるプログラミング言語です。
JavaScript
JavaScriptはWebブラウザ上で動作するプログラム言語で、Webサイト開発では欠かせない言語です。Webサイトに動きを与えるための言語で、近年のリッチなWebサイトにおいてはほぼ全てにJavaScriptが使われています。
JavaScriptの最大の特徴は、Chromeなどのウェブブラウザがあれば簡単にプログラムを実行できる手軽さです。
開発環境を整える必要がなくブラウザとテキストエディタがあれば実践的なことができるため、始めるハードルが低いです。また、すぐにテストができるため動きがわかりやすく、初心者にもおすすめの言語と言えるでしょう。
Python
Pythonは Googleの三大言語の1つで、機械学習などのAI(人工知能)開発の人気によって注目を集めているプログラム言語です。
AI(人工知能)自体はニューラルネットワークや複雑な数学の公式など、初心者が学ぶにはハードルが高いですが、Python自体はプログラムが知らない人でも簡単に習得できるように設計されたプログラム言語のため、習得難易度はそれほど高くありません。
将来、AI(人工知能)などの分野に進みたいと思っている場合は、Pythonを学習することをお勧めします。
Swift
iOSアプリ開発で必須ともいえるプログラム言語が「Swift」です。
以前はObjective-Cという言語が使用されており、C言語に似たプログラム言語のため習得難易度が高かったのですが、Swiftはコードがシンプルで比較的習得しやすい言語になりました。
アプリ開発エンジニアを目指している場合、覚えておきたい言語です。
HTML・CSS
現在では様々なWebサービスやアプリが出ています。そしてそれらのWebサービスはプログラミング言語によって作られています。プログラミング言語は様々な種類があり、Webサービス開発に適した言語も多く存在します。その中でも基礎の基礎とも言える言語がHTMLとCSSです。
言語自体はそれぞれ異なりますが、基本的にはHTMLとCSSはセットで用いることが一般的です。主な役割としてはWebサービスの表示とシンプルですが、そもそもせっかく良いWebサービスを開発しても、表示ができなければ何も始まりません。Webページのデザインに関する知識はWeb開発に必須とも言えるものですから、一通りの知識は持っておくことを心掛けましょう。
ITエンジニア経験者とは違う自身の強みを生かした転職活動をする
ITエンジニアの採用市場はコロナ禍の影響で企業が育成に苦慮していることから、経験者採用が中心になっていることは明確です。コロナ以前であれば未経験者であっても開発プロジェクトに参画し、サポート的な立場からFace to Faceでの教育に基づく段階的なステップアップが可能でした。リモートワークが中心の現在では教育方法も限定的になってしまい、未経験者を段階的にステップアップさせる場が少なくなっています。
上記の理由から、優先的に求められているのはリモートワークであっても自身で業務の組み立てができる経験者なのです。
「業務を組み立てる」とは、例えば以下のようなことです。
・システム開発の流れを理解した上で、自身の担当する役割は何なのか?その前後のプロセスを理解した上で自身の開発業務を推進できる
・お客様の業界のビジネスロジックを理解した上で、システムの在り方も変化する。その判断ができる。
ITエンジニアを目指して先のIT資格を取得し、言語の勉強をしたとしても「システム開発の流れ」が理解できてないと業務を組み立てることはできません。お客様の業界のビジネスオペレーションを理解していなければ、システムがどの様なオペレーションを効率化できるのか、イメージがわきません。
その様なITエンジニアとしての経験者不足を補うには、これまでの自分のビジネス経験を生かすことが可能なポジションや会社を選択することが重要になります。
例えば、営業職からITエンジニアへの転職を実現した場合、お客様とのミーティングや交渉に秀でていることが期待されますので、比較的上流の役割を任させるかもしれません。マーケティングを経験していた場合には、Webサイトのデザインについて知識を持っていることで、お客様のECサイト開発に当たり積極的な提案ができることをアピールできます。
具体的な会社の例として、全国にホームセンターを展開する株式会社カインズがあります。「IT小売業の実現」という目標を掲げ、売場や社内でのIT活用を急速に推進しており、ITエンジニアを広く募集しています。
小売業の出身者でITエンジニアを志向している方にとっては、純粋なITエンジニア経験者と比較して異なる強みとしてアピールできることでしょう。
ITエンジニアへの道を切り開く
IT業界に対する需要は今後も増えることでしょう。
SIerなどIT業界以外でも、IT系職種の求人が増えています。小売りはEC化、医療では遠隔診療、営業も遠隔が進んでいますし、テレワークの浸透でセキュリティ関連の人材需要も伸びています。
ITエンジニアの活躍の場は広がってきています。
このように、市場拡大やリモートワークへの対応の柔軟性の観点から、ITエンジニアを目指す未経験の方も多いことでしょう。ITエンジニアに転職したい、でも、そのためにどうしたら良いのか?と悩んだ場合には、ご紹介した3つの原則を実行してみてください。
ITエンジニアの入り口となる資格の取得、市場ニーズの高いスキル、言語の勉強、そして、ITエンジニアには無い現職での経験を生かしたアピールです。
自身のキャリアアップに向けて、ITエンジニアへの道を切り開いていきましょう。
<参考URL>
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