国内における新型コロナウイルスによる感染者の第二波は過ぎ去ったと言われ、9月以降の新規感染者数は500人前後が続いているため沈静化という状況ではないものの、外出時のマスク着用、3密対策、そしてリモートワークが定着してきたことで爆発的な拡大は収まっているという印象です。
ヨーロッパ主要国では本格的な第二波により毎日15万人が感染していることで、外出禁止令が出ている国もある中で、日本人の清潔さ、礼儀正しさといった国民性が拡大を抑えていると考えられています。
一方で、企業の業績については外出自粛期間の影響により大幅な減益や赤字が続出し、特に飲食業界・旅行業界・航空業界など大きな影響を受けた業界では閉店・大幅賃金カットによって企業活動を維持せざるを得ない状況となっています。Go Toキャンペーンの様な政府の施策効果の結果はこれから期待させるものの、業績回復のスピードは非常に遅くなっています。
発表されている有効求人倍率は著しく低く、まだまだ“先行きへの不透明感は拭えない“というのが、企業活動の状態でしょう。
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IT業界転職求人倍率の状況
先行きの不透明感は企業の有効求人倍率にあらわれています。ハローワークを窓口とする統計データを確認すると、2020年1月には1.4倍程度あった正社員の有効求人倍率は、9月時点で1.04倍まで急下落しており、採用の枠は狭くなってきていることがわかります。
一方、転職支援の大手パーソルの運営する“転職・求人サイトdoda”でも求人倍率を公開しており、こちらの求人倍率は1.61倍となっています。ハローワークの数字とは大きくかけ離れていますが、こちらは人材紹介サービスとして扱っている案件を基準にしている為、ハローワークの数字とは少し乖離がでます。人材紹介サービスでは各業界での専門性の高い経験者の転職を扱うことが多い為、それに対応する求人も条件や待遇が高くなる傾向にあります。ハローワークは未経験・経験者不問であることから応募者も多く、求人倍率が人材紹介サービスと比較して下がるという訳です。
dodaの求人倍率1.61倍の内訳として、IT・通信の求人倍率は4.90 となっています。前年同月比で2.95下がっているものの、全体の業種の中で最も高い求人倍率を維持しています。
この4.90という求人倍率は、求人者1人に対して5つの求人から選択ができる、と言い換えることができます。コロナ禍と言われる社会危機に際しても、IT業界に対しては、安定した需要が見込まれることから、ITエンジニアは安定性のある職種であることが改めて確認できます。
ITエンジニアの求人が多い背景
なぜ、コロナ禍に於いてもITエンジニアに対する求人が多いのでしょうか。3つの観点から確認していきます。
(1)普遍的な顧客ニーズ
コロナ禍とは言え、全ての企業活動を停止している訳ではありません。システム開発案件は一定量発生し、システムの保守も従来通り必要となります。とは言え、元々計画していたシステム開発案件は企業側の予算執行タイミングの見直しが発生し、保留になるケースが増加しているようです。この点に限っては、ITエンジニアの需要は一時的に低下しています。
また、業界ごとに対応しなければならない法制度対応のシステム改修も必須でしょう。小売業界でいえば、改正割賦販売法にもとづくICクレジット端末への対応期限が2020年3月までとして設定されていました。その対応の為に大手小売業は開発をシステム開発ベンダーに委託し、機器の入れ替えを実施しています。つまり、普遍的な顧客ニーズが一定量、常に存在しています。
(2)ニューノーマルによる新しいニーズ
外出自粛期間中にECサイトでの購買活動が一気に拡大し、その傾向は今でも続いています。アパレル業界ではECサイトへの構えを用意していたブランドと、そうでないブランドでの売上格差が一気に広がってしまいました。
これまではECサイトの再構築を含めたいわゆる、DX(デジタルトランスフォーメーション)実現に向けた新しいシステム開発、導入のニーズが増えてきています。在宅勤務が当たり前になってきた状況では、在宅勤務を実現する会議システムやコールセンターシステム、そしてセキュリティ対策も見直されてきています。
ニューノーマルな生活様式に基づく新しいニーズを満たすためにも、ITエンジニアの需要は増えていくことでしょう。
(3)専門性が高い・代替性が低い
ITエンジニアは専門性が高く、誰でもなれる訳ではありません。また、ITエンジニアのスキルもインフラ・Web開発・データベースエンジニア・セキュリティ・システム管理・AIなど専門性の幅が非常に多岐に渡っており、それらの技術進化のスピードも早いことから、すぐに代替となるエンジニアを見つけるのが困難という実態があります。
このようにIT業界、特にITエンジニアに対する需要はコロナ禍の社会的な変化に対して、一時的な減少はあっても大きく斜陽になることは考えられません。専門性が高いほど、代替性の低いITエンジニアであるほど、転職市場の付加価値は高いと考えますので、求人者1人に対して複数の求人から選択の余地があります。
未経験者も転職先としてIT業界を志望
先の通り、ITエンジニアの需要は大きく下がることはないことを理解してからか、転職サイト「Re就活」を運営する学情の調査の結果によると、IT業界への転職希望者が急増していることがわかりました。
サイト来訪者を対象に4月に実施したアンケートで「転職をする際に魅力を感じる業界」を尋ねたところ、「IT・通信・インターネット」が37.8%で最多となっています。1月時点では10.1%だったことを考慮すると、IT業界に関心を持つ人が急増していることが分かります。
IT業界は「テレワークの環境が進んでいるイメージ」「スキルが磨ける」「需要の高い業界」といった意見が多く、転職したい職種についてはITエンジニアが増えていることも、このアンケート調査では確認されています。数字の伸び率から、未経験者にとっても魅力的な業界として映っていることがうかがえます。
新卒採用の枠縮小や採用見送りと並行して未経験のITエンジニアの採用も厳しくはなっていますが、採用そのものは引き続き行われています。ITエンジニアの業務難易度にも幅があることから、難易度の比較的低い業務から任せることができる人材が必要です。
また、経済産業省によると、IT人材は現在でも17万人が不足していると推計されています。今後もIT需要の拡大が見込まれる一方で、人口減少に伴い2030年にはIT人材数が約80万人不足に上ると予測されています。
そのような将来を見越した育成を考慮して、今後も積極的な採用活動が、止まることは少ないと考えます。
コロナショックにより転職希望者にとっては非常に厳しい状況が続いていますが、IT業界、ITエンジニアの求人は他の業界を大きく引き離して売り手市場を維持しています。それはIT業界に定常的なニースがあり、ITエンジニアは専門性の高い代替が難しい職種だからです。未経験の転職希望者から見ても、IT業界は魅力的に映っていることがアンケート結果から確認できました。
コロナ禍といわれる社会情勢はまだ終わりが見えません。それでも政府のGO TOキャンペーンを始めとして、経済活動は段階的に再開しており、ITへの投資も来年度には増加すると予想されています。
(IDC Japanは国内ICT市場について2021年は1.2%増の28兆2605億円と予想)
ITエンジニアはこのような時期でも高い需要があるため将来性を見込める可能性があります。
今の仕事が安定して将来を見込めるということであれば経験者も未経験者も無理をする必要はありませんが、上を目指して意欲的となるべきか世情を調べてみてはいかがでしょうか。