エンジニアで年収を上げるには、開発技術だけではなくマネジメントを覚えて管理者になるものというのが、日本のIT業界のセオリーです。
では、技術一筋の職人のような生き方を望むエンジニアの場合、どのように年収を上げられるのでしょうか?
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システムエンジニア(SE)の年収には幅がある
日本は同じエンジニアでも要件定義などを担当する上級SEなどに比べ、顧客とのコミュニケーションを必要としない詳細設計や、プログラミング工程を担当するプログラマーでは年収が高くならない傾向にあります。
若年層であれば転職に至るまでの知識や経験は必要になるものの、同じ会社に在籍を続けて昇給するより転職で年収が上げられるケースが多く見受けられます。
さらに、IT業界は多重下請け構造であるがゆえに、エンジニアの年収は所属する企業の規模に大きく左右されます。これは厚労省の賃金基本構造統計調査の結果にも現れており、元請けとなる大企業の平均年収が最も高く、二次受け、三次受けになるにつれ平均年収も下がる傾向にあります。
達成することは容易ではありませんが、多くの年収を手にいるためには大企業への転職を最終的な目標の1つとして視野に入れておきたいところです。
技術を追い続けてスペシャリストとして年収アップは可能か?
エンジニアとしての経験年数を重ねた場合、マネジメント能力を磨いて管理者として上を目指すのがセオリーでした。その場合、現場の技術からは少し離れて部下の管理や顧客との折衝などの業務がメインになってきます。
技術の専門家となるスペシャリストの道は最初から不可能ではありませんが、スペシャリストの道を選んだエンジニアはそれぞれがエキスパートなので競争が激しく、開発技術1本で業界を生き抜くのは、場合によってはマネジメント職に就くより難しいと言われています。
技術の進化が激しいIT業界では今持っている技術が数年後には使えなくなることも珍しくなく、常に最新技術にアンテナを張り、実践して先導者として身に着ける必要がスペシャリストにはあります。
しかし、競争の激しさを考えると業務内で何かしらやっているはずの開発技術以外のスキルについて、他に併用で持つスキルを選んでキャリアの幅や厚みを増した方が、将来の選択肢は多くなります。
スペシャリストとして進む場合、企業にもよりますが下記の職種がポジションとして考えられます。
- テックリード(リードエンジニア)
- ITスペシャリスト
- ITアーキテクト、など
これらの職種の概要と、想定年収を見ていきましょう。
テックリード(リードエンジニア)
テックリードは、プロジェクトやチームにおける技術面でのリーダーのことです。
品質の高いコードはセキュリティや生産性の向上に繋がります。テックリードは自身の知識を生かしてチーム全体の開発をサポートし、コードレビューによりソースコードの標準化と品質向上を図ります。
テックリードの年収の目安は、約500万円~600万円となります。技術的なリーダーという立場から一般のエンジニアよりも年収は高い傾向にあります。
ITスペシャリスト
ITスペシャリストは、ITスキル標準(ITSS)で定められる下記6つの専門分野のいずれかにおいてレベル3以上を満たす人であると言われます。
- システム管理
- セキュリティ
- データベース
- アプリケーション共通基盤
- ネットワーク
- プラットフォーム
プロジェクト全体の工程に関わるシステムエンジニア(SE)などとは違い、ITスペシャリストは上の6つの分野が生きる工程に専門的に携わり、基本的には複数のプロジェクトに参加します。
ITスペシャリストの平均年収は約400万円〜1000万円となり、金額に大きな幅があります。これは個人の能力や経験に大きく左右される職種であるためで、ある分野で秀でたスキルを持つ人材であれば、高額の年収を獲得することを意味します。
ITアーキテクト
ITアーキテクトは、顧客企業の経営層などから出された経営戦略に沿って、ITシステム全体の企画・構想からシステム全体の骨組み(グランドデザイン)を設計します。
前の2つの職種がプログラムやサーバーなどに関するIT専門家であるのに対し、ITアーキテクトはIT知識はもちろんのこと、幅広い分野の知識やコミュニケーション能力が必要とされる職種で、システムの規模が大きいほど責任が大きくなります。
テックリードの年収の目安は約700万円~800万円となり、求められるスキルも高いことから、他の職種に比べ年収も高い傾向にあります。
稼げる企業(儲かっている企業)を目指す
平均年収や、上で挙げたような職種ごとの年収の目安はあくまで平均値であり、企業の規模や収益状況によって獲得できる年収には大きな差が生まれます。
どれほど技術に精通したスペシャリストであっても、所属する企業が儲かってなければ多くの年収を望めないのは、至極当然の原理でしょう。
稼げる企業の代名詞でもあるのがスタートアップ企業やベンチャー企業と呼ばれる急成長を目指す企業ですが、この場合は事業が軌道に乗っているかが分かれ目で、軌道に乗っていないと高年収には繋げにくいのが実情です。
また、ベンチャー企業には資金に限りがあるため誰でも高待遇で受け入れることはできません。そのため、スキルがある優秀なエンジニアの少数精鋭が基本となり、技術力がないとその座につくのは難しいと言われています。
フリーランスという選択肢
企業に所属せず、フリーランスとして稼ぐ道もあります。フリーランスは技術力の他に営業力や経営能力も必要になり、仕事が取れなければ収入がゼロになるリスクも考慮が必要となります。
近年ではフリーランスのためのエージェントサービスもあり、案件紹介やクライアント企業とフリーランスの受発注をスムーズに行えるよう仲介してくれます。エージェントサービス経由で仕事を得ることで安定して仕事を受注でき、さらに単価の高い案件を受注できることもありますが、その場合は年収が高くなってもエージェントに支払う経費も高くなる点に注意が必要です。
高額のフリーランス案件は基本的に客先常駐になるため、在宅ワークを目的にフリーランスになった場合は選択肢として取りにくいのが実情です。エージェントサービスは主に関東、関西、中部圏などの大都市の案件を対象に仲介していることもあり、地方のフリーランスで生きて行く場合には不便を感じることもあるでしょう。
個人事業主であるフリーランスは、解雇などについて法定に守られておらず、災害や不況などの場合は真っ先に切られる立場になってきます。最悪の事態を考えて複数のルートから案件を取れるようにするなど、リスク管理ができることも検討事項になります。
どの業界でもフリーランスには案件を出さない企業もあるため、起業してひとり社長になるのも1つの選択肢になります。ひとり社長もフリーランスに近いのですが、企業としての立場を持っていることもあり案件の交渉に繋げられる確率はフリーランスより高くなります。
マネージャ(管理者)を選択肢から外す前に
かつてのITエンジニアはプロジェクトリーダー(PL)を経由してプロジェクトマネージャー(PM)に進むのがキャリアパスのセオリーでした。昨今では技術系のスペシャリストや営業系のセールスエンジニアといった、マネジメント以外の選択肢も増えています。
経済産業省の発表した「IT関連産業の給与等に関する実態調査結果」によると、コンサルタントやプロジェクトマネージャーといった管理系の職種は、ITアーキテクトなどのスペシャリストより年収水準が高いという結果が出ています。とにかく稼ぎたいという人には、マネージャ(管理者)という職種は有力な選択肢になります。
クライアントとの折衝や人材のマネジメントが中心となる管理職は人によって向き不向きはあることは否定しませんが、だからといってイメージだけで切り捨てるのではなく、具体的に「自分が何を仕事に求めるか」を考えた上で選択肢から外す方が良いでしょう。
マネジメントに進む場合、企業にもよりますが下記の職種がポジションとして考えられます。
- プロジェクトリーダー
- プロジェクトマネージャー
- ITコンサルタント
これらの職種の概要と、想定年収を見ていきましょう。
プロジェクトリーダー
現場のリーダーとして、プロジェクトの推進、メンバーの管理、見積やコストの管理など、円滑にプロジェクトを推進するためにチーム全体をマネジメントするのがプロジェクトリーダーの役割です。
プロジェクトの規模や内容によってはプロジェクトリーダーも要件定義や設計にも参加し、時には内外問わず難しい調整や費用の交渉なども担当するため、高いコミュニケーションスキルとリーダーシップが求められる職種です。
プロジェクトリーダーの年収の目安は約400万円~700万円となり、マネジメント職は過去の実績が多いほど年収が高くなる傾向にあります。
プロジェクトマネージャー
プロジェクトの計画から管理を担う職種で、主な業務には「意識決定」「計画の推進・管理」「内部、外部との対人関係の円滑化」などがあります。プロジェクト全体をマネジメントとする点ではプロジェクトリーダーと重なる部分もあり、実際にこの2つの役割を1人で兼務するプロジェクトもあります。
プロジェクトリーダーは主にメンバーを管理するのに対し、プロジェクトマネージャーは顧客や経営層などを含めた全体の関係を良好に保ち、プロジェクトに関わるすべてのステークホルダーを管理することから、一般的にプロジェクトリーダーよりプロジェクトマネージャーの方が上位職と言われます。
プロジェクトマネージャーの年収の目安は約500万円~となり、実績やスキルによっては年収1000万円を超えるような求人もあります。
ITコンサルタント
クライアント企業が抱える経営課題を聞き取り、ITを活用して課題を解決するシステムの提案をするのが主な仕事です。
要件定義や設計などよりも、もっと前の段階からシステム開発に関わり、ITの職種のなかでも上流業務を担当するITコンサルタントは、よりビジネス目線での分析・提案能力が求められます。
ITコンサルタントの仕事は激務になることが多いようですが、高収入が狙えるメリットがあります。有名なコンサル企業ともなれは、新卒でも年収1000万円を超えることもあります。
キャリアアップに必要なものを見定める
エンジニアの代表的なキャリアと、技術系・管理系の職種について紹介してみました。自身の将来を考えた時に、仕事に対して求めるものを考え直す一助になれば幸いです。
技術系のエンジニアとして進む場合、技術の市場価値を把握して今後需要のある技術を習得しておく必要があるでしょう。自身の興味を基準としても良いのですが、年収アップに繋げたければ今後の開発現場で必要とされるスキル、将来的に需要が高まるスキルなどを磨いておくとよいでしょう。
マネージャーとスペシャリスト、どちらの道へ進んでいくかはエンジニアとしての希望、現実的なポストの状況など、様々な要因が絡んでくることでしょう。
その中でも技術のスペシャリストを目指すのであれば、目標地点を定めた上で常に新しい技術に興味を持ち、日々研さんを重ねて知識とスキルを積み上げていく癖を持てるようにしておくと良いでしょう。