システム開発に携わるエンジニアとして、自身の将来像を模索することはとても大切ですが難しくもありますね。
長く従事していくと、管理職としての選択肢となるものが「PM(プロジェクトマネージャー)・PL(プロジェクトリーダー)」という役職です。
PMというとプロジェクトのトップであるという認識は広く持たれているかもしれませんが、詳細な業務内容などを把握できているという方は少なく誤解されている方もいらっしゃるかもしれません。
今後のあなたのエンジニア人生の舵をどう切っていくのか決めるためにも、選択肢となるPM・PLとはどういうものか理解することはとても大切です。
ここではPM・PLがそれぞれどのような定義分けがされているのか、またPM・PLがどのような役職なのか実態を含めて解説してまいりますのでみなさんの今後のエンジニア人生をどのようにすすめるか考える材料としてみてください。
まずはPM・PLの業務内容を把握しやすくするため、概要としてどのような定義分けがされているのか解説します。
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PMBOKからPM・PLの定義の背景を知り違いを把握しよう
エンジニアとして従事していて「PMBOK(Project Management Body of Knowledge)」というものを知らないという方は少ないかもしれませんが、まずはPMBOKとは何か簡単に解説します。
言わずと知れたプロジェクトマネジメントに関するノウハウと手法の集合体「PMBOK」は、プロジェクト管理をおこなっていくうえで必要な概念・手法・用語・工程などを体系的に示したもので、それぞれの役割も詳細に記されています。
4年に1度のペースで更新され、今ではプロジェクトマネジメントの世界標準として広く浸透しています。
PMBOKはアメリカに本部があるPMI、で作成されているもので、現在最新版は2017年に公表された第6版となっており、第7版はコロナの影響などもあり2021年以降になるそうです。
PMIとはProject Management Insituteの略称であり翻訳すれば、プロジェクトマネジメント協会ということになります。アメリカで発足した一般社団法人で、その会員数は世界中で50万人にも及んでいます。
またこのPMIが主催するPMP(Project Management Professional)というプロジェクトマネジメントの国際資格もPMとして持っておくべきであると日本でも認知されているものですが、これもPMBOKに基づいて試験が行われているのです。
プロジェクトマネジメントの専門家であることを証明する資格です。受験者におけるプロジェクトマネジメントの経験や知識だけではなく、マネジメントに対する姿勢などの実務的な内容までも問われます。
この資格は一度取得すれば終わり、ではなく常に成長が求められるこの業界らしい仕組みでもありますが「3年ごとに再試験」を受け、合格し続けることで資格を継続することができます。
PMBOKからPMの定義の背景を読み解く
PMBOKに記載されている「プロジェクトマネジメント(=PMの業務内容)」には、以下の項目が挙げられています。
- スコープ管理(目標・作業範囲・成果物)
- スケジュール管理
- コスト管理
- 品質管理
- 要員管理
- コミュニケーション管理
- リスク管理
- 調達管理
- ステークホルダー管理
- 統合管理
中には「これもPMの作業なのか?」と感じられる細かなものも含まれていますが、それだけ「プロジェクトという理想が通用しないものをやりくりすることができてこそのPMである」ということなのです。
それぞれの各項目について計画書を作成して実施するべき、というのがPMBOKの方針なので計画書を作るだけでもかなりの労力が必要ですが、だからこそ不測の事態に陥った時にもPMとしてプロジェクトを確実に運営・管理することができます。
ただしPMBOKはあくまでノウハウを手法のナレッジですから、実際の現場でPMとして力を発揮するためにはこれだけでは不足です。 PMPではPMBOKに基づいた試験が行われますが、経験や取り組み方といった実務的な内容も重視しているのもそのためでしょう。
【余談】PMBOK第7版では大幅な変更が行われる
PMBOKについて紹介しましたが、次に公開される第7版では、これまでのものを土台として大きな変更を行うとされています。
今までのものだけでなく新しく価値・原則というものを重視する方向性も示されるのだそうです。
PL(プロジェクトリーダー)とは
PMについてPMBOKに基づいて解説したところで、PLとはどういったものかについて解説します。
PLはPMと同じ程度に当該プロジェクトの目指すべきゴールを把握し、そこに向かってメンバーを正しい形でリードしていくというのがPLに求められる姿です。
ですからスコープ管理の部分をPMとしっかり共有し、そこに向かっていくために今どのような状況にあるのかを日々把握しなくてはなりません。
そのうえでメンバー一人一人の視野が狭窄してしまい思うような成果につながらないようなことにならないためにも、ユーザーや外部の人材とメンバーのパイプ役としての立ち位置も重要です。
PLの主な業務についてリストアップすると以下のようになります。
- メンバーとのコミュニケーションを図り円滑にチームを動かしていく
- プロジェクトにおけるスコープを把握し、それに向かいリードしていく
- メンバーへのタスクの割り振りとスケジュール管理を行う
- 問題発生時やトラブルなどを早期に把握し適切な方針を示す
- チーム内外の関係者・メンバーのパイプ役となる
これらを実施するだけのスキルや経験が必要になるということから考えていくと、PLになるために何をすべきかが見えてきます。
様々な現場でメンバーとして働きながら、「このリーダーのやり方はとても良い」と思えるポイントを観察しておくことはもちろん、トラブル発生時などにどのような対応をしたのか、なぜそうしたのかなど聞いておくということもよいでしょう。
PLというポジションになると、様々な案件でもプロジェクトのリーダーとしての働きが求められるようになります。
特定の業種に絞って経験を積むことでスペシャリストを目指す選択肢もありますが、様々な業種に対応できるPLを目指すことも可能ですから、多くのプロジェクトを経験するということも大きな糧になるでしょう。
またもう一つ忘れてはいけないのが、PMよりもPLはチームメンバーにとっての理解者としてあるべきで、メンバーからもそう認識してもらうことでチームをまとめ動かしていくことができるものだということです。
言ってしまうと(プロジェクトを動かすためにも)一人一人のメンバーにしっかりと寄り添うことができるか、ということもPLとしての腕の見せ所となるのです。
PM(プロジェクトマネージャ)とは
冒頭でも簡単にPMについて解説しましたが、ここではさらにPMについて掘り下げてみていきましょう。
理想通りのシナリオで進まないプロジェクトというものを、どのようにゴールに向かって導き様々なものをやりくりするのかがPMだと説明しました。
PLがチームをまとめ動かしていく、PMはPLから伝わるチーム内の状況も踏まえ、顧客を含めた外部の人々との橋渡しをし、ゴールに向かって進めていくために必要なものがなにかを常に考えることが大切です。
技術力的な要素以上に、先を見越す先見力・想像力、そして人的・金銭的・時間的なリソース管理と調整能力、高い判断・決定力がPMに必要なスキルとなるため、それを裏打ちする豊富な経験も当然必要になります。
またシステム開発におけるトラブルはつきものとも言えますが、思い通りにスケジュールが進まない時などに動揺せず状況をまとめ、進むべき道筋を示すことができる精神力も欠かせないスキルです。
PMのキャリアパスの多様化
以前はPMといえば一般的なのは「システムエンジニア⇒プロジェクトリーダー⇒プロジェクトマネージャー」という流れでした。
近年ではPMというポジションにより高い専門性が必要ではないかという見方が強まったこともあり、キャリアパスは上記に限らない事象も多く見受けられます。
どのようなキャリアパスがあるのかというと以下のような流れからPMになるケースが増えているのでご紹介します。
- ソフトウェアデベロップメント(ソフトウェア開発者)
- アプリケーションスペシャリスト(専門技術エンジニア)
- ITスペシャリスト
- ITアーキテクト
- PM
このような流れで、ITスペシャリストやITアーキテクトをPM候補として中途採用する企業も増えています。
③のITスペシャリストとなるためにはIPA(独立行政法人情報処理推進機構)が定めるITプロフェッショナルを教育・訓練する際に用いられるスキル体系であるITSS(IT Skill Standard/ITスキル標準)で以下6つの分野でレベル3以上を取得することが必要です。
- システム管理
- セキュリティ
- データベース
- ネットワーク
- プラットフォーム
- アプリケーション共通基盤
このように広く専門的な知識を保有した人材がPMにふさわしいという見方が広がっている、と考えると今からPMになるために何が必要か検討しやすくなるのではないでしょうか。
このITSSを執り行っているIPAではPMとしての資質を図るための「プロジェクトマネージャー試験」もあります。
PLとPMは似て非なる役割
ここまでPLとPM、その定義の背景なども含めて解説してまいりました。
最後に手短にまとめるとこのようになります。
「PLはチームメンバーにおける最高の理解者でありリーダーとして統率し、管理することが求められる」
「PMはPLが吸い上げる情報と、求められている結果などの状況を踏まえゴールに向かって統率・管理しながら外部とのパイプ役となることが求められる」
PLとしての経験はPMとしての職務を全うするのに重要とはいえ、近年PMにはより高い専門的な知識・スキルが求められていることも忘れてはおけません。
ただ、IT業界はここで紹介したPM・PLといった管理職としてのキャリアだけでなくテックリード(技術面でチームをリードしていく人材)など専門職としてのキャリアを積むことも可能な環境です。
あなたがこれから思い描くご自身のエンジニア人生をどのように作り上げていきたいのか、これまでの経験なども踏まえた将来像も加味して考えていくことも可能だということも忘れないでください。
そしてこれから目指すべき道が見えたら、そこに向かって必要な経験を積むための行動を起こしましょう。
所属している会社に案件や部署など希望を伝える、それがかなわないのであれば希望を叶えるための転職を検討するのも必要なのではないでしょうか。