IT業界は日々革新が進んでおり、これからの時代をエンジニアとして生き抜くためには新たなスキルを柔軟に取り入れていくことがより重要性を高めています。
中でも数年前より広く知られ、投資術として活用されてきたデジタル通貨は様々な国で日常的に使える通貨の代用としても利用されようとしています。
デジタル通貨を開発するためにはセキュリティ問題や技術的な問題など様々な難題もありますが、IT業界においては一般的なシステム開発とは異なるブロックチェーン開発のスキルをもったエンジニアのニーズも高まっています。
ここでは今後どのようなエンジニアとして働いていくべきか思案中の方々や、今後伸びる可能性のある分野を検討中の皆さんに改めてデジタル通貨について考えていただくきっかけを提案いたします。
Contents
2021年に実施予定の日銀発行のデジタル通貨実証実験
他国でも行われている中央銀行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)を日本で実現する可能性を探るための実験を2021年に行うことを、2020年10月9日に日本銀行(以下「日銀」)が発表しました。
日銀ではこれを「一般利用型CBDC」として、企業や個人が広く使えるものとすることとしています。
この実験は3段階で行われるもので、一般消費者が参加できるのは3段階目のパイロット実験で民間企業も参加します。利用店舗が限られる電子マネーとは違い、CBDCは現金と同じ感覚で使える利便性の高さも期待されるものですが、決済履歴などを日銀が管理できてしまうということに懸念をしめす声もあります。
中国では世界の決済システムにおいて中国の通貨”人民元”の価値を底上げする狙いがあり、他国に先駆け開発が進められていることもあって、日銀も今回の公表に踏み切った背景もあるのではないでしょうか。
デジタル通貨(CBDC)のメリット4点
それなりのメリットがなければ慣れ親しんだものを手放し、新しいものを取り入れるのは受け入れがたいと感じる方は多いのではないでしょうか。
また、普及しないものをシステム化しても企業にとってメリットとは言えませんから、エンジニアとしてその方面のスキルを身につける価値があるのか測れません。
続いてCBDCのメリットについてみてまいりましょう。
①価値の安定しない民間のデジタル通貨とは違い、安定した価値の“ステーブルコイン”となる
民間企業が運営しているデジタル通貨は数あるものの、投資目的の利用者が多いことからも分かるように価値の変動が起こる前提のものです。
これに対してCBDCは価値の変動しない“ステーブルコイン”となるもので、日本円と同等の価値を持つものとして安定性から日常的に生活の中で活用することができるのです。
②他国への振込手続きにかかるコスト・時間の節約になる
海外送金の必要がある場合、今までは中継銀行としての役割を担うコルレス銀行での審査や処理が必要です。しかし、1週間ほど時間がかかる上に正常に送金されないケースもありました。
当然送金にかかる手数料も高くついてしまうのですが、これがCBDCに置き換わることで時間もコストも節約につながるとみられています。
③デノミネーションもスムーズになる
デノミネーションとは紙幣の再発行や額面変更の事ですが、これには「眠っている資金や不正に貯めこまれている資金をあぶりだす」目的もあるのだとか。日本の最近の話では、2000円札の発行がそれにあたります。
デジタル化されれば各種不正(汚職やマネーロンダリングなど)も監視できることになる、ということもメリットであるとしています。
④バハマ諸島で行われたCBDC発行プロジェクトで分かるインフラ的メリット
700の諸島から形成されるバハマ諸島は人が住む島はそのうち30ほどで、その中には銀行が利用できない島もあるのだそうです。銀行に気軽にアクセスできないバハマならではの話で、CBDC発行プロジェクトは人々の生活の利便性を大きく向上させる働きを期待されているでしょう。
中央銀行が発行するSand Dollerでバハマ諸島全体の金融包括レベルを向上させるという狙いもあるのだそうです。
Facebook社の「リブラ」が否定的にとらえられている理由
SNSツールとして知らない人はいない存在となったFacebookを運営している同社では、2019年6月に仮想通貨プロジェクト「リブラ」の発表をしました。
これまで発行済みの仮想通貨といえば、無数に存在するそれぞれのコンピュータが実行・検証をすることでハッキングにも強い、分散型のセキュリティシステムを可能にしたブロックチェーンで開発されたものでした。
ですが、このリブラは中央集権型で、データをどこで管理するのかというとFacebookの子会社やISA・ペイパル・マスターカードやスポティファイといった企業が名を連ねるリブラアソシエーションのサーバです。
一企業など“唯一の管理者”という存在を持たないリブラは仮想通貨として理想的な背景はもちつつも、実態は中央集権型でほかの仮想通貨とは大きく異なる、という点も否定的にとられることにつながっているのでしょう。
CBDCのデメリットとも言われるいわゆる”一元管理”は「世界でも否定的な見方をされている」ということは、今後のCBDCにおける懸念点として残らないかも注目されます。
それ以外にも、基軸通貨の中心が企業に移ることには否定的で、全世界にユーザを抱えるFacebookが世界共通の暗号資産を持つと法定通貨の存在が脅かされると考えられています。セキュリティ面で問題が懸念されているFacebook社が仮に暗号資産の運用を開始した場合、不具合の発生時に全世界に甚大な被害を及ぼす可能性も大きな危機感となりました。
多数の課題・問題と各国の強い批判から方針の見直しを迫られており実現の目途は立っていませんが、このリブラの発表から世界各国の中央銀行がCBDCの検討を進めたことは事実でしょう。
世界各国のCBDCの動き【対“デジタル人民元”の動き】
日本のCBDCだけでなく世界の動きもどうなっているのか簡単にみてみましょう。
【スウェーデン】
既に国民のキャッシュレス化も進むスウェーデンでは2017年から「eクローナ」と名付けたCBDCの実施を進めており、2020年の実地テストを経て最短で2021年の国内完全キャッシュレス化を目指す。
【ウルグアイ】
スウェーデン同様に国民のキャッシュレス化が進んでいて、CBDCのパイロット実験も進められている
【中国】
基本設計も完了し、2020年にはデジタル人民元のパイロットテストを5万人規模で実施するなど進められている。人民元の国際的な普及とドル基軸からの脱却が狙いとも。
【アメリカ】
デジタルドルを発行するためホワイトペーパーを発表済み。デジタル人民元が世界的な基軸通貨として普及するのを防ぎたい動き
【イギリス】
CBDC発行をイングランド銀行総裁が検討中と発表済み
【リトアニア】
2020年7月にデジタルトークン”LBCOIN”の発行予定(LBCOINはCBDC発行に向けた実験的取り組みの位置づけ)
このように様々な国でCBDC発行に対しアクションがある現状で、国際決済銀行であるBISとともに、日本・カナダ・スイス・スウェーデン・イギリスの中央銀行がCBDC共同開発のためのワーキンググループを設立しました。
ある一つの通貨だけが強くなってしまうということは世界にとってもリスクとなるため、各国が普及を急がざるを得ない背景も見えてきますね。
今後日本においてもこの動きが活発になれば、各所におけるシステム対応もニーズが増えてくることも想定内ですから、エンジニアとしてこの開発技術を身に着けるということは活躍の幅を広げることに直結するのではないでしょうか。
エンジニアとして今後の活躍に関わるCBDC開発技術ブロックチェーン
CBDCを日本においても公に導入するとなると、すでに問題になっている仮想通貨でのトラブルなども頑強な対策が求められるようになります。
今時点でブロックチェーン開発にたけた技術者にニーズがあることはもちろんですが、今後さらに必要性が高まってくるでしょう。
セキュリティ対策面でも安心できるものであることも大切で、私たちの生活の基盤にも関わるCBDC。こちらでも紹介させていただいたように、対海外・対企業だけでなく個人消費にも波及するCBDCはほぼ確実に今後の重要技術となるのではないかと考えられます。
複数個所でお金が動くのをリアルタイムで処理する電子通貨(決済)は、どのような処理で行われているのか等、他の業務分野でも参考になる、役立つ技術になります。
今後の動向にもアンテナを張り、より必要とされるエンジニアとして活躍するためにも、機会があればぜひチャレンジしておきたい分野としてご紹介しました。