プログラミングのスキルや知識がなくてもアプリケーションを構築できるノーコード開発。
ノーコードツールは、すでに海外でシェアを急激に伸ばしています。アメリカでShopify(ショップファイ)のようにECサイトの構築に使われるようになり、日本でも注目され始めました。
日本でもテレビCMもしているKintone(キントーン)は知名度も高いノーコード・ローコードツールとしても知名度をあげています。
この数年のうちに世界で開発されるアプリケーションの65%は、ノーコードあるいはローコードで開発されると予想されています。
近年、コロナ禍や働き方改革などの要因によって中小企業の働く環境にデジタル化が求められ、業務改善が急務となっています。
スクラッチによるシステム開発では間に合わず、あらためてノーコード開発が注目されています。その反面、スクラッチによるシステム開発の仕事は減ってしまうのか、プログラマーの仕事は激減してしまうのかなど、気になるところです。
この記事では、ノーコード開発の概要やメリット・デメリットなどについて解説するとともに、「将来ITエンジニア(プログラマー)が不要になるのか?」という疑問についても検証します。
ノーコード開発とは?
ノーコード開発の概要をはじめ、注目されている理由やローコードとの違い、向いている開発などを解説していきます。
ノーコードの概要
ノーコード(NOCODE)を日本語に直訳すると、コードの必要がないという意味になります。つまりノーコード開発とは、コーディングをせずにツールやシステムを開発することです。
コーディングをしないで開発をするというイメージが湧かない方もいるかもしれません。
ノーコードによる開発では、ノーコードツールで用意された操作画面で、画像やボタンなどのパーツを配置してツールやシステムを開発します。
ノーコードとローコードの違い
ローコード開発とは、少量のプログラムコードでシステムを構築する手法です。ローコードのプラットフォームは拡張性が高く、ほかのソフトと連携しやすいので大規模なシステム開発に適しています。
ノーコードとの違いは、コーディングの必要性です。ノーコードは完全にコーディングが不要ですが、ローコードは最低限のコーディングが必要になります。
ノーコードが注目されている理由
独立系ITコンサルティング調査会社のアイ・ティ・アールは、2022年2月17日に国内のローコード/ノーコード開発市場規模の推移と予測を発表しました。
年度 | 市場規模(単位:億円) |
---|---|
2019年 | 415 |
2020年 | 516 |
2021年 | 656 |
2022年 | 824 |
2023年 | 1,030 |
2024年 | 1,272 |
2025年 | 1,539 |
ローコードとノーコードによる開発の市場規模は右肩上がりで拡大していることがわかります。
近年、DXの推進によって急激なビジネス環境の変化に迅速に対応しようとしている企業が多くなっています。そのため、開発スピードを速められるノーコード開発が注目されるようになったのでしょう。
参考:ITRがローコード/ノーコード開発市場規規模推移および予測を発表(ITR)
ノーコードが向いている開発
ノーコードであれば、コストを節約しながら素早く開発を進められます。その点、資金が限られる中で事業を展開するベンチャー企業やスタートアップ企業が行う開発に適しているでしょう。
反対に、ノーコードはテンプレートを組み合わせて開発するので、デザインや機能の拡張性が低いです。そのため、独自のサービスを開発したい場合には不向きといわれています。
ノーコード開発のメリット
ノーコード開発の魅力をさらによく知れるよう、ノーコード開発の代表的なメリットを解説していきます。
メリット1.非ITエンジニアや文系出身でも開発できる
ノーコード開発では、プログラミング言語を学習したことがない方でもツールやシステムを開発できます。
プログラミング経験のない非ITエンジニアや、ITにあまり詳しくない文系出身者でも開発業務に参加しやすくなります。
したがってノーコード開発を導入すれば、人材不足で開発業務が遅れてしまっている課題を解決できる可能性が高いです。
メリット2.教育・採用コストを節約できる
プログラミング言語を学習するには、教材費やスクール費用などが必要です。
ノーコードをベースとした開発であれば、プログラミング言語の学習コストも削減できます。
IT未経験の社員にもプログラミングを任せられるので、報酬の高いITエンジニアを雇用せずに済むため、採用コストも削減できます。
メリット3.開発がスムーズになる
業務アプリケーションを作るときは、要望をITエンジニアに伝えて設計をしてもらい、レビューのフェーズを挟んで開発に入ります。その点、ノーコードであれば発案者がアプリケーションを構築できるので、ITエンジニアに開発を依頼する必要がありません。
たとえば、ペーパーワークをデジタル化したいと思ったとき、自分でツールを開発して業務を改善できます。ノーコードツールを導入すれば、開発がスムーズになる可能性が高いです。
ノーコード開発のデメリット
ノーコード開発は非ITエンジニアでも開発が行えるというメリットがある一方で、デメリットも少なからず存在しています。
デメリット1.開発の自由度が低い
ノーコード開発では、ツールによって機能が異なるので、開発の自由度がツールに左右されます。
自分で思った通りに開発ができない点は、プログラミングに慣れている方だともどかしく感じてしまう可能性が高いです。
デメリット2.ツールを選ぶのにリサーチが必要
ノーコードツールにはさまざまなツールが存在しており、選定するのにリサーチ時間がかかります。もし不要な機能が多いツールを選んでしまえば、その分コストが高くなってしまうでしょう。
デメリット3.英語が苦手だと利用しづらい
海外産のノーコードツールも存在している点にも注意が必要です。
外国語にしか対応していないツールであれば、使い方を覚えるのに苦労するほか、トラブルがあったときに日本語のサポートが受けられない可能性もあります。
ノーコード開発でツールを選定するポイント
ノーコード開発でツールを選定するポイントについても確認してみましょう。
ポイント1.ほかに利用しているツールとの相性
ノーコードツールでは、すでに利用しているツールと連携してアプリの開発を行えます。たとえば、Googleスプレッドシートをデータベースとして活用できるノーコードツールがあります。
社内で利用している主力ツールとの相性まで検討すれば、ノーコードツールをさらに有効活用できる可能性が高いです。
ポイント2.開発対象の種類
ノーコードツールは、特定の開発対象に特化したツールもあります。たとえば、ネットショップを作るのに適したノーコードツールとしてShopifyが代表的です。
クレジットカード決済を受け付けられる機能をはじめ、オンライン販売に必要なシステムを初心者でも構築できます。ストアのデザインを無料のテーマから選んで、色や画像、フォントなどを気軽にカスタマイズすることも可能です。Webデザインのスキルも必要ありません。
このように特定の開発を効率化できるノーコードツールがあるので、開発対象に応じて選び分けることも重要です。
ポイント3.サポート体制
ノーコードで開発を行っても、作成したツールやアプリなどの運用がうまくいかなければ本末転倒です。ノーコードツールの支援体制にも着目してみましょう。たとえば、アプリをリリースしたあとの課題分析や、ダウンロード施策などまでサポートしてくれるノーコードツールがあります。
成功事例やノウハウなどまで共有してもらえば、ノーコードツールの使い方を深くまで理解できるでしょう。
ノーコードが主流となりITエンジニアは不要となるのか?
結論として、ノーコードツールの市場が増えたとしても、ITエンジニアの存在は不可欠です。
たとえば、プログラミングでは同じ機能を実現するときにも、さまざまなアルゴリズムの設計を検討できます。
無駄な処理を含むコーディングをしてしまえば、プログラムの実行スピードが遅くなってしまい、ツールやシステムの品質も下がってしまうでしょう。
当然、ノーコードを活用する非ITエンジニアだけでは、アルゴリズムの設計は行えません。ツールやシステムの品質を高められない可能性があります。
もちろん、非ITエンジニアが行う開発の分だけ、ITエンジニアの仕事が減る可能性は否定できません。しかし、品質の高いツールやシステムの開発では、これまで通り設計のフェーズが必要であり、ITエンジニアの存在も不可欠です。
逆に言えば、ITエンジニアの仕事はプログラミングだけではないということが言えます。
ITエンジニアに大切なのは、プログラミングを行いシステムを構築するということだけではなく、効率的なシステム設計を行うこと、将来の拡張性を考慮した設計など、アルゴリズムやアーキテクトを構築する解析力、理解力も重要なスキルといえます。
ノーコードでアプリケーションを構築する際にも同様の配慮は必要となり、非ITエンジニアがノーコードでアプリケーションを構築できたとしても拡張性が損なわれていて、機能追加に多くのコストが発生したりするといった問題も起きてくるでしょう。
まとめ
ノーコード開発を導入すれば、誰でも簡単にアプリケーションを作れるようになるとおわかりいただけたでしょう。
ノーコードであれば、非ITエンジニアでも手軽にアプリケーションを構築できるので、教育コストや開発コストも削減できます。
しかし、ノーコードは用意されているパーツを組み合わせてアプリ構築をするので、効率的な処理や自分好みのカスタマイズができない可能性もあります。大規模なシステムや、複雑なロジックを必要とするシステムも、ノーコードでは実現できない分野です。
また、ノーコードであってもアプリケーションの構築に必要な設計フェーズを省略できません。ノーコード開発のシェアが高まったとしても、ITエンジニアの業務はそう簡単には減らないでしょう。
むしろ、IT活用・デジタル化といったマーケットは、ノーコード開発の普及によって広がることもあり得ます。ITエンジニアの役割がさらに重要になる可能性があるので、システム開発に関する技術を継続して磨いておきましょう。