ITエンジニアの人手不足が深刻になっています。政府の発表では2030年に最大79万人のITエンジニアが不足するという試算がでています。
そんなIT業界で「受託開発はオワコン」「受託開発に未来はない」といった記事をよく目にします。自社開発の増加やクラウドの普及等がその理由のようです。
しかし、受託開発にはまだ将来性がある、という意見もあります。様々な業界でITの需要が高まり、DX推進が急速に進んでいる中、大きなプロジェクトにはまだまだSIer等による受託開発が必要、ということが言われています。
一見矛盾した状況にも見えますが、多数の意見がある受託開発がオワコン、SIerはやめとけといった意見の真意はなんなのか、詳しく解説します。
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そもそも受託開発とは?
そもそも、「受託開発」とはどのような開発形態を指すのでしょうか。一般に開発は「受託開発」と「自社開発」に二分されます。「受託開発」は、委託先からシステム開発を委託され、その要望に沿って開発を行う形態を指します。
対して「自社開発」は、自社が企画したシステムを自社で開発する形態を指します。自社で販売するためのシステムの場合もあれば、自社内で業務のために利用するシステムを開発する場合もあります。
SIerとSESの違いとは?
受託開発を行う企業として、SIerやSESといった言葉を聞いたことのある方も多いと思います。しかし、両者の違いとは一体なんなのでしょうか。
SIerとは、「System Integration」を行う企業を指します。「System Integration」とは、システム開発を請け負う事業を指し、クライアントのシステム開発の要望に応じ、設計から開発、運用等を担う企業のことを指します。つまりSIerとは、「システム開発を請け負う企業」と言えるでしょう。
対してSESとは、「System Engineering Service」を指します。これは企業の種類というよりも、「契約形態」の一種です。簡単に言えばSESとは、労働力が不足している企業に対して、エンジニアを紹介する契約形態のことです。そのため、SES企業に勤める場合、多くのエンジニアは客先へと常駐し、そこで開発等の業務に携わることになります。
SIerで受託開発に携わるメリット
それでは、SIerで受託開発に携わる場合、どのようなメリットがあるのでしょうか。ここでは、3つのメリットを紹介します。
ITスキルが身につく
受託開発に携わる最大のメリットはやはり、ITスキルが身につく、ということにあります。ゼロから新規プロジェクトの開発に関わることができると、プログラミング言語だけでなく、データベース等のミドルウェアについての知識も身につけられる場合もあります。
システム構築の知識を得るためには受託開発でいくつものプロジェクトを経験するということは幅広くITスキルを身につけることができるというのが最大のメリットであると言えます。
新規開発に携われる
自社開発のみに携わっている場合、既存のシステムをベースにした仕事に携わる機会が多く、なかなか多くの新規開発のチャンスはありません。
得意自社サービスなどの開発の場合、構築が完了してしまうと運用フェーズに移行してしまうため、機能追加や機能改善など、ベースとなるシステムがある中での一部の改修というのが主たる業務となりますので、常に新しいプロジェクトに携わりたいと思っている人にはストレスかもしれません。
受託開発の場合、クライアントによって望むシステムは異なるため、一からスクラッチで新しいシステムの開発を進める機会が多くあります。そのため、幅広い知識や経験が期待できます。
業界が広い
自社開発が一定の業界に限定されているのに対して、受託開発の場合、クライアントは様々な業界に属しています。
そのため、業界について多様な業務知識を身に着けることができる、というのも大きなメリットです。
但し、クライアントによっては、プログラム言語やミドル環境の指定があったり、業務知識を一定レベル以上あることを求められたりと、多くのプロジェクトに携わりたい場合は、常に多くの学習時間を確保し、情報収集に時間を費やさなくてはなりません。
そのため、SIerは得意な分野を絞って、例えばECサイト、業務システム、基幹システム、Webアプリケーションの開発を強みとしていたり、金融関連、物流関連、流通関連などを得意としているSIerも多く存在します。
もし、やりたい分野や、業種、業務の開発があるのであれば、SIerを検索する際に条件として絞り込んでみてください。また、関心のある業界を見つけSIerから事業会社へ転職するということも可能です。
SIerに受託開発を依頼するメリット
それでは、発注者側がSIerに受託開発を依頼するメリットとは、どのようなことがあるのでしょうか。ここでは3つのメリットを紹介します。
コストを抑えられる
一般に、自社内で一からシステムを開発するよりも、受託開発の方が、人員や工数、費用といったコストを抑えることができるとされています。
なぜなら、初期開発フェーズとローンチ後の運用フェーズでは、必要とするITエンジニアのリソースに大きく差異があるからです。
初期開発時には多くのエンジニアを必要とし、運用フェーズになると必要とするリソースは極端に減少します。
もし、内製として自社にITエンジニアを雇用してしまうと、運用フェーズになり仕事のなくなったリソースを他のプロジェクトへ回さないといけませんが、事業会社などはそこまで新規の開発プロジェクトがあるわけではありません。
SIerに委託していれば、プロジェクトの完了をもってチームは解散しますから不必要なリソースを抱え続ける必要はありません。
SIerへ開発業務を委託する企業が多い理由の1つです。
また、受託開発の場合には複数社によるコンペが行われる場合もあり、価格を競争させることによってコストを抑えることが期待されます。
予算等の計画を立てやすい
受託開発での発注の場合、要件を伝え見積もりをSIerに依頼してから検討して発注し、それから実装フェーズが開始しますので、SIerの業務が開始する時点で予算や支払時期等が明確に決まっている状態になります。
決まった額以上の支払いが発生することが基本的にはありませんので、発注側は予算、スケジュールなどの計画を立てやすい、というメリットがあります。
SIerの視点から考えると、発注時には売上、スケジュールが確定するわけですから、不具合などが見つかり、その改修に時間がかかってしまうと、利益を削っていくことになってしまいますので、見積もりの段階で綿密に試算をすることが重要になってきます。
開発ノウハウを吸収できる
自社のみで開発をする場合、新しい開発のノウハウを得る手段は限定されています。しかし、受託開発の場合には、そうした開発ノウハウを吸収できる場合があります。
昨今、アジャイル開発がSIerでも広がってきている理由の1つとして、クラアントからスクラムで開発をしてほしいと要求されることもあり、SIerによる開発手法も様変わりしてきています。
しかし、もちろん開発の全てをSIerに丸投げするのではなく、自社のエンジニアもプロジェクトに関わっていくことが求められます。
自社エンジニアに求められるスキルとして最も重要視されるのは、SIerやSESで他社リソースを効率的にコントロールし、プロジェクトを予定通りにすすめるための管理能力なのです。
受託開発がオワコンと言われる理由
ここまで、受託開発のメリットについて紹介してきました。
受託開発には働く側にも発注する側にも大きなメリットがあり、現在でも需要も高いように思われます。
しかし、それではなぜ受託開発はオワコンという意見が多くあるのでしょうか。ここでは、一般に言われている3つの理由について紹介します。
自社開発の増加
受託開発がオワコンと言われ最大の理由は、自社開発が増加しつつある、ということにあります。日本の多くの企業が、SIerに依存し過ぎているという指摘も受け、特に大企業において、システムを自社開発していく機運が高まりつつあります。自社開発が増加するということは、必然的に受託開発の需要が下がるということでもあります。
基本的には内製よりもSIerに委託するほうがコストがかかり、管理コストも必要となります。
内製に転換することでコストは下がるとともに、自社にノウハウが蓄積されるので継続的に開発業務が発生するような企業は内製化を検討しているようです。
特に、意思決定を迅速にすることが求められている変化の多い時代ですから、統制が取りやすい内製化は大きな企業にこそメリットも多いのでしょう。
大規模なプロジェクトが減る
受託開発がオワコンと言われるのは、大規模なプロジェクトが減っていくのではないか、という見通しがあるためです。システムを開発する際には、ただアプリケーションを作るだけでなく、サーバーやストレージといったインフラも構築する必要があります。
しかし昨今のクラウドの勃興に伴い、そうした大規模なインフラ構築の必要性がなくなりつつあります。そのため、大規模なプロジェクトが減るということが指摘されています。
特に、マイクロサービスなどの考え方も台頭しておきており、一気に大規模な開発プロジェクトを立ち上げるよりも、プロジェクトをミニマム化することで環境の変化にも適用できるようにという開発手法が主流となってきているのでしょう。
昨今の働き方に見合わない
SIerの働き方が、時代に見合わないということも指摘されています。ここ最近では改善されつつありますが、SIerをはじめとするIT系の企業には、働き方に多数の問題が指摘されています。
ブラック企業という言葉もIT企業の働き方に対して、使われることが多かったのではないでしょうか。
また、パワハラなどのハラスメントがある職場の話もよく耳にしてきました。
残業の多さなど、SIerの働き方には時代に見合わない点が根強く残る企業もまだあるようです。
そのため、受託開発を行うSIerには今後、働き方の改善が更に強く求められていくでしょう。
コロナ禍にリモートワークの導入率が最も高かったIT企業ですが、現在のIT企業の多くは働き方を改善し、ITエンジニアが業務に集中できるように改善してきています。
また、リモートワーク、フルリモートなどの働き方の多様化にも適応するべくIT企業が率先して実践しているように見受けられます。
受託開発に将来はあるのか?今後も残る?
それでは結局のところ、受託開発の将来はどうなってしまうのでしょうか?
結論から言えば、受託開発は今後も残り続けます。その理由を紹介します。
様々な業種でITの需要が高まっている。
現在、様々な業界・業種でITの需要が高まっています。病院や工場など、IT企業以外でもシステム開発の需要は急速に高まっています。
特にデジタル庁が設立され、デジタル化やDX推進などこれまでにはなかった要因から多くの開発リソースが必要になることが確定していますが、経験豊富なIT人材が不足している状況下、事業会社などがIT人材を確保することが難しいようです。
そのため、すぐにSIerの仕事がなくなる、ということはなく、しばらくはSIerの仕事の場は残り続けると考えられています。
自社開発にはコストがかかる
自社開発が進みつつある、といっても、現在のところは主に大企業に限定されています。自社開発をするためには、それ相応のスキルを持ったエンジニアを雇う、あるいは教育していく必要があります。
しかし、上述でもお伝えしましたが、現在は未曾有のIT人材不足といわれ、経産省のレポートでも2030年には最大79万人ものIT人材が不足すると試算されています。
IT企業以外の事業会社が必要とするIT人材を確保することは非常に難しい環境になっていると言わざるを得ません。
また、自社での開発ノウハウを蓄積していくのにも時間がかかります。既にスキルやノウハウを備えたSIerには、一定の需要が見込めます。
大規模なプロジェクトはSIerに
大規模なプロジェクトになるほど、人員が必要になるのは当然です。しかし、自社開発にはリソース上の限界があります。官公庁のシステムや金融機関のシステムなど、すべてを自社内でまかなうのは不可能に近いといえます。
そうした大規模なプロジェクトにおいては、SIerによる受託開発に頼らざるを得ません。
オワコンのSIerに見受けられる特徴とは
SIer,受託開発には未来も残ることは間違いありません。しかし、すべてのSIerが安泰なわけではありません。
中には、企業としての将来が怪しいSIerも存在します。SIerがオワコンという意見がある理由がそこにあります。
全てのSIerがオワコンということではなく、旧体質のSIerは時代の流れに淘汰され消えていくという未来しか待っていないということなのです。
そうしたオワコンのSIerに見られる特徴についてご紹介します。
SIerを見極める際のご参考にしていただければと思います。
三次請け以下のSIer
SI業界は以前から、多重下請けの構造で成り立っています。
クライアントから直接委託を受けるのではなく、別の企業が契約し、実際の業務は別の会社に依頼するといったような階層構造になってしまうことが以前は一般的に多かったのです。
そうした状況の中で、特に三次請け以下のSIerの将来性は低いと言われています。今は受託開発の需要が高いため、まだ三次請け以下の企業でも仕事があります。
しかし、中間マージンが発生したり、給与が低く、働いているエンジニアのモチベーションが低かったり、連絡や報告の経路が複雑化するなど、メリットがありません。
また、多くの場合はクライアントとの接点もなく、プロジェクトを部分的に携わることになりますので、プロジェクト全体の業務知識やノウハウが蓄積されることもなく、作業者として見られてしまうことのほうが多いようです。
特定の取引先に依存しているSIer
特定の取引先に依存しているSIerも、将来性が低いと考えられています。SIerの将来性の高さは、様々な業種でITが重視されつつある、という点にありました。
そのため、特定の業種や取引先に依存している状態では、自社に新しい知識やノウハウが蓄積しづらく、今後の変化に対応しきれない可能性があります。
そうなってしまうと、現在の特定の取引先に依存し続けるしかなく、その取引先の動向によっては仕事がなくなってしまうような状況に陥ってしまうのです。
働き方の古いSIer
SIerがオワコンと言われている理由の一つに、働き方が時代に見合わない、ということがありました。
例えば、見積もりが甘く、いざ実装し始めたら想定外の仕様がみつかったり、不具合が多発したりしてしまったが、クライアントの要求によりスケジュールを変更できず、残業して改修し続けて毎日終電という状況になってしまったりという話は過去のことではなく、現在でもそういったSIerは存在しているのです。
しかし、働き方改革の旗振り役としてもIT企業は率先して働き方の多様化、環境の改善に力をいれています。
今後は対応できる企業と、対応できずにいる企業との二極化は進むと言われています。
そうした古い働き方をしているSIerは淘汰されていくと考えられています。
まとめ
ここまで、受託開発が果たしてオワコンなのか、解説してきました。簡単に言えば、受託開発そのものはオワコンではありませんが、企業によっては生き残ることのできないSIerもあります。特に、三次受け以下のSIerや特定の取引先に依存しているSIerは淘汰されてしまう可能性非常に高いとされています。
そのため、将来性のあるSIerで働きたい人は、企業を見定める必要があります。発注元のクライアント企業から直請けで取引をしていたり、上流から運用までをワンストップで対応できていたり、自社サービスも展開しているような企業がベストでしょう。
将来性のあるSIerに務めることができれば、幅広い実務経験だけではなく、システム開発におけるワンストップなスキルを取得することすら可能ということです。
また、働き方改革の旗振り役としてもIT企業の改革は眼を見張るものがあり、コロナ禍以前と比べても驚くほどのスピードで働く環境が変化しています。
テレワークの導入により、ITエンジニアはよりシビアに成果で評価されるような方向になっていくものと思われます。終身雇用が終焉を迎えたという意見とも関連して、成果主義、ジョブ型雇用の導入など、スキルの高いエンジニアには適した時代担っていくと思われます。
しかし、まだ経験の浅いエンジニアや、これからジョブチェンジしてITエンジニアを目指す人にとっては入り口に高いハードルがあるようなことにもなってしまう可能性があります。
そうなると、2030年には最大79万人のIT人材が不足してしまうということが現実化してしまうかもしれません。
今後は多様的な考え方を受け入れ柔軟に対応できるIT企業が残っていくのでしょう。
将来性のあるSIerで働きたい人や、キャリアアップを図りたい人、またオワコンのSIerなのかどうかを自身で見極めるのが難しいと思っている人は、転職エージェントに相談するのがおすすめです。
IT業界専門のエージェントであれば、オワコンの受託開発をしているようなSIerを紹介されることもなく、よいキャリアプランを描くことができます。
転職エージェントを活用する最大のメリットは、転職先の求人をさがしてくれるということです。
既にITエンジニアとして働いている人も、これからIT業界で働こうとしている人も、多くの経験を積んで本来のポテンシャルを発揮できるような企業へ勤めることができるよう、サポートさせていただければ、きっとよいキャリアを積むことができるのではないでしょうか。