新型コロナウイルスの猛威から日本のビジネス環境は激変し、IT業界でも完全にテレワークに切り替える企業が多くなりました。
その中、オフィスの在り方に対する考え方も変化しています。テレワークの導入によって、出社率とともに必要なオフィス面積が減少し、オフィスの分散化・縮小化が進んでいます。
テレワークに完全移行すると本社機能が都心にある必要がなくなることから、郊外や地方へ移転する動きも加速し始めました。オフィスの分散化・縮小化の事例はもはや珍しくはなく、IT企業でも分散型オフィスの環境が整備されつつあります。
今回は、分散型オフィスの概要をはじめ、メリット・デメリット、IT業界でオフィスの分散化が進む理由などについて解説いたします。これからの働き方を検討しているITエンジニアの方はぜひ参考にしてください。
Contents
分散型オフィスとは?
分散型オフィスの概要を解説します。理解を深めるために、分散型オフィスと集約型オフィスの違いについても参考にしてみてください。
分散型オフィスの概要
分散型オフィスとは、本社以外の場所に整備されたビジネス拠点を設置し1箇所に集中しないように設計されたオフィスになります。本社から離れた場所でもビジネスに専念できるようにサテライトとして複数箇所に小規模スペースを用意したりと、業務に支障がでないことを目的としています。
地方の企業が都市部に分散型オフィスを設置するケースがあるほか、反対に都市部の企業が地方に分散型オフィスを設置するケースもあります。
大手企業が地方に本社を設置するニュースなどが流れていることがありますが、そのケースが該当します。
そのほか、営業担当者の移動を効率化できるよう、取引先の近くにシェアオフィスを契約するケースも、分散型オフィスの利用に該当します。
集約型オフィスとの違い
集約型オフィスとは、分散型オフィスと異なり、全社員が同じ場所で勤務するオフィス形態です。
社員を一箇所に集めることで業務を効率化できます。また、社員が交流しやすくなるので、アイデアも生み出しやすくなります。
これまでの日本の企業の大半は集約型オフィスで運営されていたことになります。
ただし、オフィスが災害などで利用できなくなると、社員一同が働けるスペースを失うだけでなく、過去に蓄積した情報まで失うリスクもゼロではありません。
これまでにも大阪や東京でも被害のあった震災時には集約型オフィスが機能せずに、働く環境が麻痺してしまったという実際のケースがあります。
その点、分散型オフィスであれば、一つの拠点が利用できなくなっても、ほかの拠点でビジネスを継続できます。リスクヘッジの観点からは、分散型オフィスを検討する価値は高いといえるでしょう。
分散型オフィスが注目されている理由とは?
分散型オフィスが注目される理由として挙げられるがテレワークの普及です。総務省はテレワークの意義・効果について下記の見解を示していました。
◆非常災害時の事業継続
・オフィスの分散化による、災害時等の迅速な対応
・新型インフルエンザ等への対応
テレワークが、オフィスの分散化による災害時の迅速な対応につながる手段として着目されており、具体的な災害として新型インフルエンザが挙げられています。
しかし近年、新型インフルエンザではなく、新型コロナウイルス感染拡大の影響によって、一つのオフィスで働くリスクが浮き彫りとなりました。
それにともないテレワークの推進が急激に進み、結果としてオフィスの分散に必要な機器やツールが整うことになりました。
オフィスの分散に対するハードルが下がったことから、今後も分散型オフィスを検討する企業は増えていくと予想できるでしょう。
なぜIT業界は分散型オフィス化が進むのか?
IT業界では、新型コロナウイルスの感染拡大を機に、テレワークが急速に拡大しています。
コロナ禍前の2019年には、勤務時間における勤務場所として、自宅やサテライトオフィスが平均2割程度であったのに対し、2020年4月の緊急事態宣言時には5割まで上昇したという調査結果があります。
また、新型コロナウイルスの感染拡大の影響によって、約6割のIT企業がテレワークを導入したことも報告されています。
このように、IT業界では分散型オフィスの利用が活発になっていることがわかるでしょう。
IT業界の仕事は基本的にパソコンやインターネットの利用が前提とされています。その点、IT企業で働く社員は、完全リモートではないにせよ、拠点を離れて自宅や外出先から仕事をするケースは珍しくありません。
そのため、テレワークに対する抵抗感がほかの業種と比べて低い傾向があります。その点で、テレワークの普及が滞りなく進み、分散型オフィスの利用も活発化していると予想できます。
参考:DXを牽引するIT業界における新しい働き方のポイント(厚生労働省)
分散化オフィスのメリット
分散化オフィスを利用すれば、コストの削減ができる可能性があります。たとえば、企業の事業が縮小して従業員数が減少したのに、広いスペースのオフィスに高額な賃貸費用を支払っているケースも少なくありません。
その場合、レンタルオフィスなどを利用して、従業員の人数に適したビジネス環境に切り替えれば、無駄な費用を支払わずに済むでしょう。
また、シェアオフィスやコワーキングスペースなどを利用すれば、利用者同士の交流も期待できます。自社では生み出せなかった発想が得られ、新たなビジネスチャンスにもつながるでしょう。
そのほか、自宅や最寄り駅に近い分散化オフィスを利用できる環境を整えれば、子育てや介護で働けなかった人材の獲得も目指せます。
分散化オフィスのデメリット
分散化オフィスは、拠点を分散させることから、働く社員も分散してしまいます。コミュニケーションが不足してしまえば、メンバーの結束力や競争意識が低下してしまうでしょう。
ただ、最近では遠隔地でも大勢でウェブ会議を行える映像通話ツールや、気軽にコミュニケーションを交わせるチャットツールなども登場しています。
コミュニケーションが不足しないように、うまくツールを有効活用していくことが重要になってくるでしょう。
ただ、ツールの使い方に関しても注意が必要です。たとえば、チャットツールは関係者以外とのやり取りも同一画面で管理できてしまいます。
誤って無関係の相手に社内の機密情報を送信してしまえば、情報漏えいにつながりかねません。拠点を分散化するときは、ツールの利用方法まで管理者がルールを定めておくことが大切だといえます。
分散化オフィスを導入する際の重要なポイント
若い世代であればITツールの利用に慣れているかもしれませんが、古参の社員がITツールの利用に手こずってしまうケースも珍しくありません。
各社員が安心してリモートワークに専念できるように、ツールやシステムの利用方法に関してトレーニングやフォローの体制を整備しておくことが重要です。
また、オフィスを分散化すると管理職の目が届かない場所で社員が働く機会が増えます。
上司が社員の働きぶりを適切に評価できないと、社員のモチベーションが下がってしまいかねません。
上司の管理下を離れて働く社員を平等に評価できる体制を構築することも重要です。
IT業界のオフィス縮小化・分散化は今後も進むのか?
日本で有名なITエリアが渋谷です。渋谷の漢字は、英語でbitter(渋い)・valley(谷)と表すことができ、情報量を示すビットや米国のシリコンバレーにちなんで、渋谷はビットバレーという呼び名でも親しまれています。
そんな渋谷は、IT関連のベンチャー企業が集約されたエリアでもありましたが、新型コロナウイルスの感染拡大によって新たな局面を迎えました。
2021年の時点で、IT企業のテレワーク導入によってオフィスの縮小化・分散化が進み、渋谷の賃貸オフィスで空き室が増加しました。
有識者によると、テレワークでオフィス移転をした企業は元に戻らない可能性があり、以前のように渋谷でIT企業が集積する可能性は低いとのことです。
今後もIT企業でテレワークの導入、オフィスの縮小化・分散化は加速していくでしょう。
まとめ
以上、分散型オフィスの概要をはじめ、メリット・デメリット、IT業界でオフィスの分散化が進む理由などを解説しました。
これまでの都市部にオフィスの本部機能を集約するのには、リスクがありました。その点、郊外や遠方にオフィスを分散する分散型オフィスには、企業だけでなく従業員にも多くのメリットがあるとおわかりいただけたでしょう。
しかし、事務所や設備などのハードウェアを移転できても、従業員の間でコミュニケーション不足が生じないように配慮が必要です。
ITエンジニアだけに限らず、距離に関係なくコミュニケーションが円滑に取れる環境こそ、これからのニューノーマルな働き方に求められる要件といえるでしょう。
IT企業はリモートワークの導入障壁が低いので、多くの企業がオフィスの分散化を実践しています。渋谷だけに限らず、さまざまなエリアのIT企業が、今後もオフィスの分散化を進めていくでしょう。
ITエンジニアの働き方は多様化が進み、もはや一般化してきています。これから転職を考える際は、仕事の内容だけでなく、働く環境のメリット・デメリットまで把握しておくことが、理想の働き方を見つけるために重要になってくるでしょう。